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1.実行行為と結果との間に、第三者の甚だしい過失による行為があっても、因果関係は否定されないとされた事案 |
1.事案の概要
平成16年3月6日の午前3時40分ごろ、被告人は、他2名と共謀のうえ、普通乗用車のトランク内に被害者を押し込み、脱出不能にしました。その後、車を発進させ、呼び出した知人と合流するために、路上で停車しました。停車地点は、車道の幅員訳7.5mの片側1車線で、また、ほぼ直線の見通しのよい道路でした。
停車から数分経った同日午前3時50分ごろ、後方から普通乗用車が普通自動車がそうこうしてきました。ところが、その運転手は前方不注意のため、上記停車車両に気づかずに、時速訳60kmで同車に突っ込んでしまいました。これにより、同車のトランク内にいた被害者は傷害を負い、間もなく死亡しました。
(関連条文)
・刑法220条・・・不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
・刑法221条・・・前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 |
【争点】
・被告人の行為と被害者の死亡に、因果関係が認められるか
2.判旨と解説
被告人らは、被害者をトランク内に閉じ込めています。この行為は、監禁に当たりますので、被告人の行為は監禁罪の構成要件に該当します。
*逮捕・監禁罪の解説はこちら
逮捕・監禁罪には、結果的加重犯(意図していた結果より重い結果が生じた場合に、重い結果についての犯罪が成立する場合)を処罰する規定があります(刑法221条)。本件では、被害者が死亡しているので、逮捕・監禁致死罪が成立するか否か、より具体的には、被告人らの行為と結果との間に、因果関係があるかが問題になります。
*因果関係の解説はこちら
刑法上の因果関係は、事実上の因果関係の存在を前提に、実行行為の結果が結果へと実現した場合に認められます。
まず、事実上の因果関係についてですが、被告人らが被害者を閉じ込めなければ、車が衝突したとしても、被害者が死亡するという結果は発生していません。そのため、事実上の因果関係を認めることに問題はありません。
次に実行行為の危険性が結果へと実現したかです。この点、被告人らの行為は、以下のように非常に危険なものでした。
・普通乗用車のトランクに閉じ込めれば、閉じ込められた者はそこからの脱出が困難になる。
・車が後ろから衝突してくることは、さほど多くはないにせよ、考え得る事態で、もし自動車が後ろから衝突してきた場合、トランクに閉じ込められた者が死亡する危険がある。
・事件当時は深夜3時50分ごろと周りが暗い時間で、見通しの良い道路とはいっても、昼間と比べれば視界が制限されていた。
・事故が起こった道路は幅員7.5m、片側一車線であり、二車線の場合と比べると、近寄ってきた乗用車が停車中の乗用車に気づいたとしても、同車を避けにくい。
本件事案において、最高裁は、被害者死亡の直接の原因が、事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、因果関係が認められるとしました。
「以上の事実関係の下においては,被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても,道路上で停車中の普通乗用自動車後部のトランク内に被害者を監禁した本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる。したがって,本件において逮捕監禁致死罪の成立を認めた原判断は,正当である。」
*大阪南港事件の解説はこちら
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