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1.被告人の行為と発生した結果に因果関係を認めることができるか |
1.事案の概要
被告人は、洗面器の底や皮バンドで、被害者の頭部等を多数回殴打するなどの暴行を加えました。その結果、被害者は、恐怖心による心理的圧迫等によって血圧を上昇させ、内因性高血圧性橋脳出血を発生させることで意識消失状態に陥らせました。
その後被告人は、自動車で被害者を近所の資材置場に運搬し、そこに放置して立ち去りました。翌日、被害者は、内因性高血圧性橋脳出血により死亡するに至りました。
ところが、資材置場においてうつ伏せの状態で倒れていた被害者は、生存中に、何者かによって角材でその頭頂部を数回殴打されていました。その暴行は、既に発生していた内因性高血圧性橋脳出血を拡大させ、幾分か死期を早める影響を与えるものでした。
(関連条文)
・刑法204条 「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
・刑法205条 「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。」
【争点】
・被告人の行為と被害者の死という結果に、因果関係が認められるか
*傷害罪の説明はこちら
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2.判旨と解説
本件では、被告人が暴行を行った後に第三者による暴行が行われ、その結果被害者が死亡しています。そのため、被告人の暴行と被害者の死亡という結果との間に因果関係を認めることができるかが問題となりました。
因果関係が否定された場合、傷害致死罪は成立せず、傷害罪が成立するにとどまることになります(なお、いずれにせよ、被告人には殺意がなかったため、殺人既遂・未遂罪は成立しません)。
*殺人罪の説明はこちら
*故意の解説はこちら
判例によれば、因果関係の判断は、条件関係があることを前提に、実行行為の危険が結果へと現実化したか否かを基準に判断されます。
*因果関係についての説明はこちら
まず、条件関係についてですが、被告人の暴行行為がなければ後に行われた第三者による暴行も、被害者の死亡という結果も発生していません。そのため、これを肯定できます。
次に、実行行為の危険が結果へと現実化したと言えるかです。被告人の行為は、被害者の頭部を木材で叩くといったものであり、死の結果を生じさせる可能性のある非常に危険な行為です。そして、被害者の死因は、被告人による当初の暴行により形成されたものです。
他方、後に行われた第三者による暴行は、死期を幾分か早めるものです。つまり、第三者が新たな死因を形成し、それが原因となって被害者が死亡したわけではないのです。そのため、本件における被害者の死亡は、被告人による実行行為の危険性が現実化したものと言え、因果関係を肯定することができます。
したがって、被告人には傷害致死罪が成立します。
「~このように、犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は、正当である」
*スキューバダイビング事件の解説はこちら
*トランク事件の解説はこちら
*不作為犯の因果関係についての解説はこちら