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[解説] 因果関係②-スキューバダイビング事件(刑法総論):最高裁平成4年12月17日第一小法廷決定 

 

Point 
1.被告人の過失行為と被害者の死亡との間に因果関係を認めることができるか 

 

1.事案の概要 

 

被告人は、スキューバダイビングの資格認定団体から認定を受けた潜水指導者として、潜水講習の受講生に対する潜水技術の指導業務に従事していました。被告人は、指導補助者3名を指揮しながら、被害者を含む名の受講生に対して夜間潜水の講習指導を実施しました。 

 

被告人は、受講生名ごとに指導補助者1名を配し各担当の受講生を監視するように指示した上、一団となって潜水を開始しました。100メートル余り前進した地点で魚を捕えて受講生らに見せた後、再び移動を開始しましたが、その際、受講生らがそのまま自分についてくるものと考え、後方を確認しないまま前進しました。その後、後ろを振り返ったところ、指導補助者名しか追従していないことに気付き、移動開始地点に戻りました。 

 

この間、他の指導補助者1名と受講生6名は、被告人の移動に気付かずにその場に取り残され、沖の方に流されてしまいまし。その上、右指導補助者と受講生らは、被告人を探し沖に向かって水中移動を行ったため、移動開始地点に引き返した被告人は、受講生らの姿を発見できませんでした。 

 

右指導補助者は、受講生らと共に沖へ数十メートル水中移動を行い、被害者の空気タンク内の空気残圧量が少なくなっていることを確認して、いったん海上に浮上しましたが悪天候のため水面移動が困難であるとして、受講生らに再び水中移動を指示しました。これに従った被害者は、水中移動中に空気を使い果たして恐慌状態に陥り、自ら適切な措置を採ることができないまま溺死するに至りました。 

 

なお、本件では以下の事情がありました。 

 

受講生は、前記資格認定団体における4回程度の潜水訓練と講義を受けることによって取得できる資格を有していた。 

受講生らは、潜水中圧縮空気タンク内の空気残圧量を頻繁に確認し、空気残圧量が少なくなったときは海上に浮上すべきこと等の注意事項は教えられていた。 

③しかし受講生らはまだ初心者の域にあって、潜水の知識、技術を常に生かせるとは限らず、に夜間潜水は、視界が悪く、不安感や恐怖感が助長されるため、圧縮空気タンク内の空気を通常より多量に消費し、指導者からの適切な指示、誘導がなければ、漫然と空気を消費してしまい、空気残圧がなくなった際に単独では適切な措置を講ぜられないおそれがあった。 

特に被害者は、受講生らの中でも潜水経験に乏しく技術が未熟であって、夜間潜水も初めてで、潜水中の空気消費量が他の受講生より多く、このことは、被告人もそれまでの講習指導を通じて認識していた。 

指導補助者らも、いずれもスキューバダイビングにおける上級者の資格を有するものの、更に上位の資格を取得するために 本件講習に参加していたもので、指導補助者としての経験は極めて浅く、潜水指導の技能を十分習得しておらず、夜間潜水の経験も回しかなかった。 

⑥指導補助者らは、被告人から、受講生と共に、海中ではぐれた場合には海上に浮上して待機するようにとの一般的注意を受けていた以外には、各担当の受講生名を監視することを指示されていただけで、それ以上に具体的な指示は与えられていなかった。 

 

(関連条文) 

刑法211条 「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。  

 



2.判旨と解説 

 

本件では、被告人が水中で不注意に移動したことで被害者を見失った行為と、被害者の溺死という結果との間に因果関係が認められるかが問題となりました。因果関係が否定された場合、被告人は不可罰となります。 

 

判例上、因果関係の判断は、条件関係が認められることを前提に、実行行為の有する危険性が結果へと現実化したかといった観点から行われます。 

 

*因果関係の説明はこちら 

 

本件は、海で行われた夜間潜水の際に発生たものですが風波が強く視界が悪かった②被害者夜間潜水の経験に乏しく指導がなければ空気残圧が無くなった際に適切な措置を講じられないおそれがあった③指導補助者らも夜間潜水の経験が浅かったといった事情があり有事の際、被害者に対する適切な指導を講ずることをさほど期待できなかった等の事情がありました。 

 

そうすると、被告人が夜間潜水中に不注意に移動し被害者を見失う行為は、被害者が海中で空気を使い果たし適切な措置を講ずることができないまま溺死する危険を有するものであったと言えます。 

 

 また、本件では、被告人の実行行為の後指導補助者や被害者に不適切な行為が介在しています。しかし、これらは被告人の行為から独立して発生したものではなく、被告人の行為により誘発されて発生したものであったと言えます 

 

そうすると、被害者の溺死という結果は、被告人の実行行為の有する危険性が現実化したものと評価できます。したがって、因果関係が肯定され、被告人に業務上過失致死罪が成立します。 

 

↓以下原文

右事実関係の下においては、被告人が、夜間潜水の講習指導中、受講生らの 動向に注意することなく不用意に移動して受講生らのそばから離れ、同人らを見失うに至った行為は、それ自体が、指導者からの適切な指示、誘導がなければ事態に適応した措置を講ずることができないおそれがあった被害者をして、海中で空気を使い果たし、ひいては適切な措置を講ずることもできないままに、でき死させる結果を引き起こしかねない危険性を持つものであり、被告人を見失った後の指導補助者及び被害者に適切を欠く行動があったことは否定できないが、それは被告人の右行為から誘発されたものであって、被告人の行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定するに妨げないというべきである。右因果関係を肯定し、被告人につき業務上過失致死罪の成立を認めた原判断は、正当として是認することができる。

 

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