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抽象的事実の錯誤とは?わかりやすく解説! 

Last Updated on 2021年2月10日




犯罪が成立するには、罪を犯す意思、つまり故意が必要です(刑38条1項)。 

 

*故意の解説はこちら 

 

 もっとも、実際に発生した事実と行為者の認識が食い違うことがあります。これを事実の錯誤といいます。そのうち、異なる構成要件間の錯誤を抽象的事実の錯誤といいます。 

 

*具体的事実の錯誤の解説はこちら 

 

例① XはY宅の犬を殺そうとして発砲したが、犬ではなくYにあたりYは死亡した。 

 

Xは器物損壊罪(刑261条)の認識で発砲をしていますが、発生した結果はYの死(殺人罪(刑199条))でした。器物損壊罪と殺人罪は異なる構成要件なので、Xには抽象的事実の錯誤があります。 

 

・刑法261条 「3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。 

・刑法199条 「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。 

 

 この場合、器物損壊罪の故意しかないXに殺人罪の故意を肯定できるかが問題となります。 

 

 通説・判例は認識した事実と発生した事実が、構成要件の範囲内で一致する限度で故意を認めます(法定的符合説 

 

両罪の構成要件が一致するかは、①両罪の行為態様が共通か②両罪の保護法益が共通か基準に判断します。 

 

この見解に立った場合、器物損壊罪と殺人罪は保護法益が全く異なるので、Xに殺人罪の故意が認められないことになります(器物損壊罪に未遂犯処罰規定はないので、Xに過失致死罪のみが成立する)。 

 

例② Xは公園に落ちていた財布を忘れ物だと思い奪った。しかし、この財布はYの占有下にあった。  

 

 Xは窃盗罪(刑235条)の構成要件に該当する行為を行っています。しかし、Xとしては占有離脱物横領罪刑254条の故意しかありませんでした。この場合、Xにいかなる犯罪が成立するでしょうか。 

 

・刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 

・刑法254条 「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。 

 

まず占有離脱物横領罪の故意しかないXに窃盗罪は成立しません(刑38条2項)。 

 

・刑法38条2項 「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。  

 

*窃盗罪の解説はこちら 

 

 それでは、Xに占有離脱物横領罪は成立するでしょうか。これは故意の問題ではなく構成要件該当性の問題ですXには占有離脱物横領罪の故意があるので、残るは客観的な構成要件的結果が発生したといえるかが問題となるため)窃盗罪の構成要件占有離脱物横領罪の構成要件が実質的に内包されていると捉えて、Xの行為に占有離脱物横領罪の成立を肯定できるでしょうか。 

 

この場合、窃盗罪と占有離脱物横領罪は他人の財産を不法に奪取する点で行為態様は共通します。また、両罪の保護法益に所有権が含まれているので、これも共通します。そのため、両罪は占有離脱物横領罪の範囲で一致するといえ、Xの行為は占有離脱物横領罪の構成要件に該当します。したがって、Xに占有離脱物横領罪が成立します。 

 

例③ Xは窃盗のつもりで公園のベンチから財布を奪った。しかし、この財布は誰の占有下にもなかった。 

 

 Xは占有離脱物横領罪を実現しています。しかし、Xは窃盗罪の故意でした。この場合のXの罪責はどうなるでしょうか。 

 

まず、Xは窃盗罪の認識ですが、窃盗罪の結果が発生していないため、Xに窃盗罪は成立しません(例②と異なり、刑法38条2項は適用されません。認識した事実よりも発生した事実の方が軽いためです。 

 

 それでは、占有離脱物横領罪は成立するでしょうか。ここでは、窃盗罪の故意があるXに占有離脱物横領罪の故意が認められるかが問題となります。 

 

先述のように、両罪は構成要件の範囲内で符合する(窃盗罪の故意に占有離脱物横領罪の故意が含まれる)ので、Xに占有離脱物横領罪が成立します。 

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