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実行行為と因果関係とは?わかりやすく解説! 

Last Updated on 2023年1月25日

 

 ある人行為に犯罪が成立するか否かを判断する際にまず検討しなければならないのは、構成要件該当性です。構成要件とは、簡単に言えば、犯罪が成立するための枠組みを言います。例えば、殺人罪なら、殺」ことが構成要件となっています(なお、不真正不作為犯の場合のように、条文に書かれている要件に加え、更なる要件が必要とされる場合もあります。)。

 

*不真正不作為犯の解説はこちら

 

 そのため、ある人の行為が殺人罪の構成要件該当するか、ある人の行為が、人を殺したと言えるか、といった感じで判断していくことになります。 

 

 構成要件該当性を判断する際に最も重要なのは①その行為が構成要件の定める実行行為にあたるか②結果が発生したか③実行行為と結果に因果関係があるかです 以下で詳しく解説します。

 

 

 

1.実行行為とは? 

例① Aは、日頃からムカついていたBを殺そうと、呪いの儀式行った。すると、Bは交通事故に遭って死亡した。 

 

 実行行為とは、結果発生の現実的危険性を有する行為を言います。ここでいう結果とは、構成要件ごとに定められている結果を指します。例えば、殺人罪でいうなら人の死、傷害罪でいうなら傷害といったように、犯罪ごとに定められます 

 

 構成要件該当性の判断は、実行行為の認定から行います。それでは、上の例のように、人の死を願い儀式をする行為は、実行行為に該当するでしょうか?

 

 この場合、Aの行為とBの死について、因果関係を検討するまでもなく、Aの殺人罪(刑199条)の成立は否定されます。なぜなら、ゲームの世界ならまだしも、現実の世界において呪いの儀式自体に、死の結果を引き起こす現実的危険性ないからです(無論、死の結果を引き起こし得ることが、科学的に証明されるようなことがあれば話は別です)

 

 そのため、たとえ、呪いの儀式を行った日に呪った相手が死亡したとしても、殺人罪の実行行為と評価されず、殺人罪は成立しないのです 

 

・刑法199条 「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。 

 

*殺人罪の説明はこちら 

 



 

例② Aは、Bを殺そうとして、Bにナイフを突き刺した。しかし、Bは怪我をしたにとどまった 

 

 この場合、Aの行為は人死に至らしめる現実的な危険性を有するものです。そのため、殺人罪の実行行為性が認められます。

 

 実行行為の存在が認められた場合、次に検討するのは、結果が発生したか否かです。しかし、Bは死亡していませんので殺人罪の定める犯罪の結果は発生していないこととなります。そのため、この場合も、結果との因果関係を検討するまでもなく、殺人罪は成立しません。 

 

 以上から分かるように、因果関係を判断するためには、具体的な実行行為と結果をまずは認定する必要があります。両者が認定されない以上、因果関係があるかを考えるまでもなく、その犯罪は成立しません。 

 

 注意が必要なのは、これらの判断は、構成要件ごとにしなければならないということです。上記例では、殺人罪の実行行為性あるいは結果の発生が否定されていますしかし、こに関しては殺人未遂罪の構成要件に該当するので、Aに殺人未遂罪が成立する可能性があります(未遂罪の成立には②結果③因果関係は求められず、①実行行為が行われたか否かが主に問題となります 

 

*未遂犯の解説はこちら

 

・刑法43条 「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 

・刑法44条 「未遂を罰する場合は、各本条で定める。 

・刑法203 「199条及び前条の罪の未遂は、罰する。 

 




2.因果関係とは? 

 

 Aは、日頃からムカついていたBを殺そうと考え、Bを家に招待した。そして毒入りのジュース(飲めば即死する)を用意してBにこれを飲ま。しかし、なぜかB全く効かなかった。Bはジュースの味に腹が立ち、怒って帰ってしまったすると、帰り道にBは崖から落ちて死亡した。 

 

 この場合、毒入りジュースを飲ますという行為は、Bを死に至らしめる危険性がある行為のため、殺人罪の実行行為に該当します。そして、Bは死亡しているので、殺人罪の結果も発生しています。 

 

 それでは、本件において実行行為と結果に因果関係があるでしょうか 

 

 判例によると、因果関係は、条件関係を前提に実行行為の危険性が結果へと現実化したか否かを基準に判断されます。 

 

 条件関係とは、実行行為と結果の事実的なつながりを指します。これは、「あれなければこれなし」といった関係がある場合に肯定されます要は、その行為がなければ結果は発生していなかったかを判断するのです。本件では、AがジュースをBに飲ませなければ、Bは怒って帰宅することはなく、崖から落ちて死亡することはなかったと言えます。そのため、Aの実行行為とBの死亡に条件関係が認められます(なお、実際の事案で、条件関係が認められないケースはほとんどないでしょう) 

 

 それでは、Aの実行行為の危険性が結果へと現実化したと言えるでしょうか?この判断は、実行行為時に存在した事情やその後の事情も踏まえて行います。

 

 本件では、即死するほどのれたジュースBに飲まています。その結果、Bが毒により即死た、もしくは数分~数時間後に毒により死亡した場合には、Aの実行行為の危険性がBの死という結果へ現実化したと言えるでしょう。 

 

  しかし、本件でBが死亡した原因は、崖から落ちたためです。これは、毒入りのジュースを飲ませた行為の有する危険性が結果へと結びついたわけではありません。そのため、Aの実行行為と結果の因果関係が否定され、Aには殺人既遂罪は成立せず、殺人未遂罪の成立にとどまります。 

 

以上からわかるように、刑法上の因果関係は、条件関係が存在するだけでは認められないのです。

 

 上記例で、Bは毒のせいで体の自由が利かなくなり、その結果崖から落ちて死亡した。 

 

 それでは、上記例でBは即死しなかったが、毒はじわじわ効いており崖から落ちた原因が毒で自由が利かなかったことにあったとしたら、どうなるでしょうか。 

 

 まず条件関係についてですが、先ほどと同様に、Bの死との間に事実的なつながりはあります。 

 

 次に、実行行為の危険が現実化したと言えるかです。例③との大きな違いは、毒がBに効いていたという点です。Bは毒により即死したわけではなく、直接の原因は崖から落ちたことによります。

 

 しかし、Aは、Bが即死するほどの量の毒をジュースに入れこれを飲ませたています。この行為は、被害者が毒により即死しなくとも、身体に様々な悪影響を与える非常に危険なものです。そして、Aが入れた毒によりBは身体の自由を奪われ、その結果崖から落ちて死亡しています。子らを踏まえると、本件では、Aの実行行為の危険性が、Bの死亡という結果に現実化したと評価できます。したがって、因果関係は肯定され、殺人罪が成立する可能性があります(なお、Aの計画と異なる点は因果関係の錯誤として論じられます)。 

 

大阪南港事件についての説明はこちら

*スキューバダイビング事件についての解説はこちら

*不作為犯の因果関係についての解説はこちら

 

 

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