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正当防衛(刑法36条)とは?わかりやすく解説! 

Last Updated on 2023年4月20日

 正当防衛については皆さん聞いたことがあると思います。ある行為に正当防衛が成立する場合、その行為の違法性が阻却されます。皆さんご存知のように、正当防衛が成立すれば、たとえ刑法に触れる行為を行っていたとしても、当該行為は無罪となります。

 

 とはいっても、正当防衛が成立する場合というのは限られています。おそらく、皆さんが想像するよりも、正当防衛が成立する場合というのは少ないことでしょう。この記事では、正当防衛の成立要件について、わかりやすく解説します。

 

・刑法36条1項 「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 

・同条2項 「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。 

 

1.正当防衛の成立要件 

 

 正当防衛の成立が認められるためには、法律の定める要件を充足する必要があります。 

  

 正当防衛の成立が認められるためには、その行為が「急迫不正の侵害に対して」「自己又は他人の権利を防衛するため」「やむを得ずにした」と言える必要があります 

 

これらの要件を1つでも欠けば、正当防衛は成立しません。

 

2.「急迫不正の侵害」とは? 

 

 「急迫不正の侵害」とは、法益の侵害が現に存在しているまたは間近に押し迫っている場合を指します。  

 

例① Aは、窃盗罪を犯したため、警察官であるBに現行犯逮捕されそうになった。そこでAは、逮捕を免れるべく、Bに暴行を加えた。 

 

 この場合、BがAを逮捕する行為は、逮捕罪に該当します。しかし、Bによる逮捕は適法な行為です。正当防衛が成立するためには、急迫不正の侵害が、違法なものである必要があります。Bの行為は「不正の侵害」ではないため、正当防衛は成立しません。 

*逮捕・監禁罪の解説はこちら

 

例② Aは、Bから暴行を受けた。Bは暴行を止めて帰っていったが、AはBを後ろから追いかけ飛び蹴りをした。  

 

 Bの当初の暴行は、「急迫不正の侵害」に当たります。しかし、Bは暴行を止めその場を立ち去っています。その後AがBに対して飛び蹴りをした時点では、「急迫不正の侵害」は存在しません。したがって、Aの行為に正当防衛は成立しません。 

 

 このような場合、Bに対する処罰は国に委ねられており、自ら報復するような行為は、法治国家においては許容されていません。

 

*暴行罪の解説はこちら 

 

例③ AとBは普段から仲が悪かった。Aは、Bから「今からお前をぶっ飛ばしに行く」との連絡を受けたが、Aは家でのんびりしていた。その後、Bが家にやってきて暴行を加えてきたが、これに対して防衛行為を行ってBを撃退した。 

 

 本件でAは、Bの侵害行為をあらかじめ知っています。このように、侵害を予期している場合でも、「急迫不正の侵害」の要件を充たすとされています。なぜなら、侵害を予期している場合に「急迫不正の侵害」が否定されることとなると、侵害を予期していた者にその場から退避する義務を課すことになるためです。 

 

 つまり、この例でいうなら、AはBからの侵害を予期したので、その場から逃げることを強いることになります。逃げずにBに暴行を加えてしまったら、Aに暴行罪が成立してしまうからです。しかし、これはAの自由を不当に害するものです。そのため、防衛者が侵害を予期していただけでは、「急迫不正の侵害」の要件は否定されないとされています。 

 

 もっとも、判例によれば、侵害の予期にとどまらず、その機会を利用して積極的に相手に対して加害行為をする意思(積極的加害意思)を有して侵害行為をした場合には、「急迫不正の侵害」が否定され、正当防衛は成立しないとされています。 

 

*積極的加害意思の判例はこちら

 

また、近時の判例(最決平成29年4月26日)は、急迫不正の侵害の判断に際しては、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況を検討すべきとします。そして、被告人の行為が、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合に、急迫不正の侵害が否定されるとしています。

 

 




3.「自己又は他人の権利を防衛するため 」とは?

 

 防衛行為は、「自己又は他人の権利を防衛するため」の行為であることが求められます。 

 

 判例によれば、正当防衛の成立には、行為が客観的に防衛行為であるだけでなく、防衛の意思が必要とされます(防衛の意思必要説)防衛の意思とは、急迫不正の侵害を認識してこれに対応しようとする心理状態をいうとされます。 

 

例④ Aは、Bを銃で射殺した。その時、BはAを殺すつもりで銃を構えようとしており、間一髪でAは死を免れた。 

 

 Bを射殺していなければ、死んでいたのはAです。この場合、急迫不正の侵害は認められます。しかし、Aに防衛の意思はありません。そのため、防衛の意思必要説に立った場合、Aに正当防衛は成立しません。 

 

 Aは、Bから暴行を受けた。これに憤激したAは、Bに暴行を加えた。 

 

 他人から暴行を受けた場合、憤激しない人は少数でしょう。このような場合に防衛の意思を否定してしまうと、正当防衛の成立を過度に制限してしまいます。そのため、憤激して防衛行為を行った場合でも、防衛の意思は否定されないとされています。また、防衛の意思と攻撃の意思が併存している場合でも、防衛の意思は否定されません(むしろ、このような場合が通常ではないでしょうか) 。

 

 もっとも、防衛の意思が全くなく、もっぱら攻撃の意思で反撃行為が行われた場合には、防衛の意思が欠けるとされます。この場合には、防衛に名を借りたただの侵害行為と評価できるためです。 

 

*防衛の意思の判例はこちら

 

4.「やむを得ずにした行為 」とは?

 

 「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為が自己または他人の権利を防衛する手段として必要性・相当性を有することを意味します。 必要性は多くの場合肯定されるので、主に問題となるのは、相当性についてです。

 

例⑤ Aは、Bから暴行を受けた。そこでAは、防衛のため、持っていたナイフでBを突き刺した。 

 

 防衛行為が相当性を有するかは、加害者・防衛者の身体的特徴、武器の使用の有無・使用態様等、諸般の事情を考慮して判断します。 

 

 上の例では、Bは素手であるのに対して、Aはナイフを使用しています。また、ナイフの使用態様は、相手に刺すというもので、素手の相手に対する防衛行為としてはやりすぎにも思われます。しかし、例えばAが女性、Bがボクサーである男性だった場合はどうでしょう。女性は男性に比べて力は劣りますし、Bはいわば格闘のプロであるボクサーです。このような場合、素手でBに対応しても、自らの法益ないし権利を守ることはできません。そのため、上の例においては、ナイフを相手に刺す行為は、防衛行為として相当なものであったと評価することが可能です。 

 

*やむを得ずにした行為についての判例はこちら

 

なお、上記例で、Bが死亡してしまった場合は、どのように考えるべきでしょうか。この点、防衛行為の相当性の判断において、結果の重大性も考慮すべきとする見解も存在します。しかし、最高裁は、結果の重大性は、相当性判断において考慮しないとの立場をとっています(もっとも、常に考慮しないとの立場をとっているかは不明です。)

 

以上から分かるように、防衛行為が「やむを得ずにした行為」と言えるかは、具体的な事例ごとに大きく異なります。そのため、数多くの事実を積み重ね、防衛行為の相当性を判断することとなります。

 

なお、防衛行為の相当性の要件を欠いた場合、過剰防衛が成立します。

*過剰防衛についての解説はこちら

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