過剰防衛(刑法36条2項)とは?わかりやすく解説!
相手が急に殴りかかってきた場合に行った実力行使は、正当防衛と評価される余地があります。
*正当防衛についての説明はこちら
もっとも、防衛行為であれば何をやってもいいというわけではありません。防衛行為がやりすぎと評価された場合には、正当防衛は成立せず過剰防衛となってしまいます。
・刑法36条1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
・同条2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
例① Aは、Bに不意に後ろから殴り掛かられた。Aは自分の身体を守るため、たまたまそこに落ちていた鉄パイプで思い切りBの頭を殴った。
Aの行為は暴行罪に該当します。それでは、Aの行為に正当防衛が成立して違法性が阻却されるでしょうか。たしかにAの行為は、自分の権利を守るために行った行為と言えます。しかし、相手の頭を鉄パイプで殴ることは、防衛行為として非常に危険なものと思われます。たとえ、自己の権利を守るために行ったとしても、上記行為はやりすぎです。
そのため、Aの防衛行為は相当性を超えたものと言えます。したがって、Aの行為に暴行罪が成立し、これは過剰防衛に該当するとして刑が任意的に減免されます(もっとも、この事例ではその他の事情は捨象して相当性判断をしていますが、Aが女性であった、Bが武器を持っていた、取るべき手段が他になかったといった場合には、防衛行為に相当性があったと評価することも可能です)。
*暴行罪の説明はこちら
例② Aは、Bに不意に後ろから殴り掛かられた。Aは、Bと知り合いで日頃から恨みを持っていた。そこで、この機会を利用してBを痛い目に合わせてやろうと考え、もっぱら攻撃の意思で、そこに落ちていた鉄パイプで思い切りBの頭を殴った。
例①との違いは、AにBを痛めつける意思があるといった点です。この場合、正当防衛はおろか、過剰防衛すら成立しないとされます。なぜなら、刑法36条2項を見れば分かるように、過剰防衛は防衛行為の相当性を欠いた場合に成立するのであって、侵害の急迫性や防衛の意思を欠いた場合の規定ではないからです。
この例で、Aはもっぱら攻撃の意思でBを殴っていますから、防衛の意思が否定されます。したがって、防衛行為の相当性を論じるまでもなく、Aに過剰防衛は成立せず、単純に暴行罪が成立します。