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【判例解説】防衛行為の一体性と過剰防衛②(総論):最決平成21年2月24日

Last Updated on 2023年2月3日

【判例解説】防衛行為の一体性と過剰防衛②(総論):最決平成21年2月24日

 

Point
1.正当防衛が成立する第一暴行と、正当防衛が成立しない第二暴行との間には一体性があるので、両暴行を全体的に考察して判断すべきとしてた事案

2.第一暴行と傷害の結果に因果関係が認められる場合でも、第一暴行及び第二暴行合わせて、1個の過剰防衛としての傷害罪が成立するとした事案

 

1.事案の概要

 

 被告人は、覚せい剤取締法違反の罪で起訴され、拘置所にて勾留されていました。そこで、同室のAに対し、折り畳み机を投げつけ、顔面を数回殴打するなどして、Aに全治3週間の傷害を負わせました。

 

 被告人の暴行の概要は以下の通りです。まず、Aが、被告人に対して、上記折り畳み机を押し倒してきました。これに対し被告人は、同机を押し返し、その結果、Aは上記傷害を負いました(第一暴行)。Aは、同机により押し倒されたので、もはや犯行が困難な状態にありました。これに対し被告人は、Aに追撃し、顔面を数回殴打しました(第二暴行)。

 

 原審は、第一暴行と第二暴行は、時間的場所的に接着してされた一連一致の行為であるから、全体として1個の傷害罪及び過剰防衛が成立するとしました。

 

(関連条文)

 

・刑法36条1項 「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」

 

・2号 「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」

 

・刑法204条 「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

 

・刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」

 

【争点】

 

・第一暴行と第二暴行は、一連一体の行為として評価されるか

 

・一連一体の行為と評価した場合、被告人に何罪が成立するか

 

2.判旨と解説

 

*暴行罪の解説はこちら

*傷害罪の解説はこちら

 

 本件では、第一暴行は、Aによる急迫不正の侵害に対し行われたものなので、正当防衛が成立します。他方で、第二暴行は、Aが抵抗困難になった後に行われたものなので、正当防衛は成立しません(このような態様のものを、量的過剰といいます)。

 

*正当防衛の解説はこちら

*過剰防衛の解説はこちら

 

 もっとも、上記帰結は、第一暴行及び第二暴行を、単独で見た場合の話です。判例上、量的過剰の事案については、2つの行為が、一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく場合には、両暴行を1個の行為として、罪責を判断するといったような手法がとられます。

 

*上記手法を用いた判例はこちら

 

 本件では、第二暴行は、第一暴行の直後に行われたものです。また第二暴行の態様は、第一暴行に続いて行われたものとしては、ある程度、連続性がある行為といえます(他方、これが、懐からナイフを取り出してAを刺すといったものでしたら、そのような評価にはならないでしょう)。そうすると、被告人の第二暴行は、第一暴行と一連一体のもので、第一暴行と同一の防衛の意思に基づくものといえます。

 

 最高裁は、第一暴行と第二暴行は、1個の行為と認めることができるから、これを1個の行為として、判断するべきとします。

 

 しかしここで、被告人に、傷害罪の過剰防衛を認めてよいのか問題が生じます(問題の所在は、上記判例解説において、説明しています。)。この点、最高裁は、この問題点があることは認めつつも、有利な情状として評価すれば足りる、すなわち、量刑で判断すれば足りるとしました。

 

 「所論は,本件傷害は,違法性のない第1暴行によって生じたものであるから,第2暴行が防衛手段としての相当性の範囲を逸脱していたとしても,過剰防衛による傷害罪が成立する余地はなく,暴行罪が成立するにすぎないと主張する。しかしながら,前記事実関係の下では,被告人が被害者に対して加えた暴行は,急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり,同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから,全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり,所論指摘の点は,有利な情状として考慮すれば足りるというべきである。以上と同旨の原判断は正当である。」

 

 

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