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[解説] 夫婦同氏性の合憲性①(法の下の平等)最高裁平成27年12月16日大法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 

1.夫婦同氏性は憲法13条、14条1項、24条に反しない 

2.「氏の変更を強制されない自由」は、憲法上の権利(憲法13条)として保障されていない 

3.憲法24条1項は婚姻をするか,いつ誰と婚姻をするかについて、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるという趣旨を明らかにしたものである 

4.婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条,14条1項に違反しない場合に,更に憲法24条にも反するかが問題となる場合は,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるかという観点から判断すべき 

5.選択的夫婦別氏制は憲法上禁止されていない 

 

1.事案の概要 

Xらは、夫婦同氏性を定める民法750条は憲法13条、14条1項、24条1項、2項に反すると主張し、国に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めました。 

 

(関連条文) 

・憲法13条 : すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 

・憲法14条1項 : すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 

・憲法24条1項 : 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 

・憲法24条2項 : 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 

・民法750条 : 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

まず最高裁は、氏名は人格権(憲法13条により保障)の一内容を構成することを確認します。 

 

「氏名は,社会的にみれば,個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが,同時に,その個人からみれば,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成するものというべきである(最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・ 民集42巻2号27頁参照)。」 

 

しかし、氏は家族等に関する法制度の一部(憲法上の制度ではない)であるため、氏の変更自体が人格権を侵害するか否かを、法制度を離れて論じる事は相当でないとします。

 

「…氏は,婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから,氏に関する上記人格権の内容も,憲法上一義的に捉えられるべきものではなく,憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって初めて具体的に捉えられるものである。したがって,具体的な法制度を離れて,氏が変更されること自体を捉えて直ちに 人格権を侵害し,違憲であるか否かを論ずることは相当ではない。」 

 

そして、民法の法制度を検討し、氏に関しての以下の事情を指摘します。 

①氏は名と同様に個人の呼称としての意義はあるが、名とは異なり家族という団体の呼称としての意義も有する(子が父母の氏になる等を根拠) 

②家族は社会の基礎的集団単位なので、氏を個人の属する集団を表すものとして1つに定めることに合理性がある

 

「そこで,民法における氏に関する規定を通覧すると,人は,出生の際に,嫡出である子については父母の氏を,嫡出でない子については母の氏を称することによって氏を取得し(民法790条),婚姻の際に,夫婦の一方は,他方の氏を称することによって氏が改められ(本件規定),離婚や婚姻の取消しの際に,婚姻によって氏を改めた者は婚姻前の氏に復する(同法767条1項,771条,749条)等と規定されている。また,養子は,縁組の際に,養親の氏を称することによって氏が改められ(同法810条),離縁や縁組の取消しによって縁組前の氏に復する(同法816条1項,808条2項)等と規定されている。 これらの規定は,氏の性質に関し,氏に,名と同様に個人の呼称としての意義があるものの,名とは切り離された存在として,夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから,このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があるといえる。」 

 

また、本件は、自己の意思により結婚することに伴って氏が変更されるというもので、自己の意思に関わらず氏の変更を強制されるものではないことを指摘します。 

更に、氏が個人の呼称であり、個人を他人から識別する機能を有することを踏まえると、自らの意思のみで氏を定めたりできるのは本来の性質ではなく、結婚等の身分変動に伴い氏が変更されるのは予定されているとします。

 

「…婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であって,自らの意思に関わりなく氏を改めることが強制されるというものではない。氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,上記のように,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。」 

 

そうすると、現行法の制度では、「氏の変更を強制されない自由」が人格権の一内容とはいえないとし、憲法13条に反しないとします(氏名自体は人格権の内容であることに注意)。 

 

「以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。本件規定は,憲法13条に違反するものではない。」 

 

もっとも、以下の事情から、婚姻前に築いた個人の信用等を婚姻後も維持する利益等(憲法13条が保障する人格権の一内容とまではしていない)が存在することを認めます。そして、この利益を、後に検討する憲法24条違反か否かの場面で検討すべきとします。 

①上記のように、氏は名とあいまって個人として尊重される基礎で、人格を一体として示すもの 

②氏の変更は、アイデンティティの喪失感を抱いたり、従前自己の氏で形成した他人から識別・特定される機能を阻害されたり、個人の信用等にも影響が及ぶ 

③近年、晩婚化の影響で、従前の氏を使用する期間が長いことから、氏を改めることによる不利益が大きい

 

「…上記のように,氏が,名とあいまって,個人を他人から識別し特定する機能を有するほか,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格を一体として示すものでもあることから,氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や,個人の信用,評価,名誉感情等にも影響が及ぶという不利益が生じたりすることがあることは否定できず,特に,近年,晩婚化が進み,婚姻前の氏を使用する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていることから,婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者が増加してきていることは容易にうかがえるところである。 これらの婚姻前に築いた個人の信用,評価,名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は,憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの,後記のとおり,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり,憲法24条の認める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる。」 

②はこちら

 

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