Skip to main content

不真正不作為犯とは?わかりやすく解説! 

Last Updated on 2023年1月25日

1.作為・不作為とは?

例① Aは、Bをナイフで刺して殺害した。 

例② Aは、Bを殴った。 

 Aは、Bに「お前を痛めつけてやる」と言って脅迫した。 

 

 作為とは、ある動作をすることを指します。上に書いたケース全てにおいて、Aに犯罪が成立します。罪名は、順に、作為による殺人罪、暴行罪、脅迫罪です。  

*殺人罪の説明はこちら 

*暴行罪の説明はこちら 

*脅迫罪の説明はこちら 

 ご存知のように、犯罪は作為によって実現する場合がほとんどです。ある動作をしない(不作為)ことで、他人の権利を侵害するといったケースは、作為による場合と比べて、ほとんど起こりえないためです。

 もっとも、刑法の中には不作為(ある動作をしないこと)を処罰する規定も存在します。 

 

 Aは、生後1ヵ月である子供Bの世話をしなかった。その結果、Bは死亡した。 

 

 刑法218条は、保護責任者遺棄罪を定めています。条文を見てみると、不保護も処罰対象となっています。不保護とは、端的に言えば、保護責任者に求められる行為をしないことをいいますから、この規定は、不作為を処罰する規定ということになります。

 

・刑法218条 「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。 

・刑法219条 「2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 

 

 上の例において、Aは保護責任者の地位にあります。にもかかわらず、保護責任者であるAは、Bを保護しなかったので、Aに保護責任者遺棄罪(致死罪、219条)が成立します。 

*保護責任者遺棄罪の説明はこちら 

 保護責任者遺棄罪のように、明文で規定されている不作為犯を真正不作為犯と言います。

 

2.不真正不作為犯とは?

 他方、刑法には不真正不作為犯とよばれるものも存在します。不真正不作為犯とは、条文上は作為により実現することを想定している犯罪を、不作為により実現する場合を指します。一般に、殺人罪は、作為により犯罪を実現するものなので、不作為による殺人罪が成立することはないように思われます。しかし、不作為により「人を殺した」と評価できるケースも実際には存在します。そこで、殺人罪のように、作為による犯罪が想定されるものについても、不真正不作為犯が成立する場合があるとされています 

スポンサーリンク 


3.不真正不作為犯の成立要件

例⑤ Aは、川でおぼれているBを見つけた。このままだとBは死ぬかもしれないと思ったが、助けずに素通りした。その後、Bは溺死した。 

 

 この例の場合Aに不作為による殺人罪が成立するでしょうか?確かに、道徳上、人助けをするべきだ、と考える人もいると思います。しかし、人助けをすることを法的義務とした場合、Aその他の行為をしてはいけないことになります。の点で、Aの自由を制限することになります。 

 また、この場合に人助けをしなかった、つまり、期待され行為をしなかった場合、A殺人罪等で処罰することになりますこれは、いくら人助けをするべきといっても、やりすぎと思われます。 

 このことから分かるように、不真正不作為犯を何でもかんでも認めてしまうと、人の自由を過度に制限し、また、処罰範囲不当に拡大してしまいます。そこで、解釈により、不真正不作為犯の成立に限定をかける必要があります 

 一般に、不真正不作為犯が成立するためには、①作為義務②作為の可能性・容易性が必要と解されています。作為義務の要件を課すことにより、不真正不作為犯の主体を限定します。また、作為の可能性・容易性は、「法は不可能を強いず」という観点から、課される要件です。 

 

 Aは、入院中のBの治療を親族に頼まれたので、医師に無断で、Bを病院からホテルに連れ出した。ホテルの客室にはBしかいなかったので、Bの命は全面的にAに委ねられてる状況にあった。その後Bの体調は悪化し、生命の危機に瀕したが、AはBが死ぬことを認識しつつも、何も措置を取らずにBを死亡させた。  

 

 これは、判例で実際にあった事案を簡略化したものです。作為義務が認められる根拠としては、法律、契約、先行行為・排他的支配等の条理など、様々なものが挙げられます。 

 本件でAは、自らBを外に連れ出し、Bの生命・身体を危険な状態にさらしていますまた、Bの生命は、全面的にAに委ねられていました。そのためAには、救急車を呼ぶ等、体調の悪化したBに、適切な治療を受けさせるための行動をする義務ったと言えますまた、救急車を呼ぶ等の措置はAに可能であり、これをすることは容易なので、作為の可能性・容易性も認められます。加えて、Aは、このままだとBが死ぬことを認識しています。 

 したがって、Aに不作為による殺人罪が成立します。 

 

*判例についてはこちら

 

スポンサーリンク
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です