名誉毀損罪(刑230条1項)は、侮辱罪(刑231条)と共に、名誉を保護するために設けられた規定です。
・刑法230条1項 「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
・同条2項 「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。」
*侮辱罪についての説明はこちら
なお、名誉毀損罪は親告罪なので、告訴権者(被害者等)の告訴がない限り、検察官は公訴を提起することができません。
・刑法232条1項 「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」
1.名誉毀損罪の内容
本罪の「名誉」とは、通説・判例によれば、その人の真の人格的価値(内部的名誉)や、その人が持つ自分に対する評価(主観的名誉)ではなく、社会的な評判や名声を指すとされています(外部的名誉)。なお、「事実」とは、その者の社会的評価を下げる事実を指します。
例① Bは、実社会での評判・名声を得ていた。しかし、その根拠となった事実が嘘であった。そのことを知ったAは、真実を公開した。
本件で公表された事実は真実です。しかし、この場合でも名誉毀損罪は成立するとされています。本罪の保護法益は外部的名誉なので、たとえ虚構に基づいた名声であっても、その評価が社会で存在する以上、保護されるのです。
例② Aは、B社の名誉を害する事実を公開した。
本罪の「人」には、法人が含まれると解されています。したがって、Aに名誉毀損罪が成立する可能性があります。
例③ Aは、密室でBの名誉を毀損する事実をB本人に伝えた。
事実の摘示は「公然と」行われなければなりません。「公然と」とは、不特定又は多数人が知りうる状態を言います。本件では、Aは、事実を本人一人に伝えたに過ぎないので、名誉毀損罪は成立しません。
もっとも、判例によれば、事実の摘示が特定小数人に対して行われた場合でも、それが不特定多数人に伝わっていく可能性があれば、公然性が肯定されます(伝播性の理論)。
例④ Aは、公知であるBの名誉を毀損する事実を公開した。
適示された事実は、公知の事実でもよいとされています。その事実を知らない人に伝わる可能性があるためです。したがって、本件でAに名誉毀損罪が成立する可能性があります。
2.公共の利害に関する場合の特例
民主主義社会においては、表現の自由(憲21条)が大いに保障されなければなりません。そのため、表現の自由と名誉の保護の調整が必要になります。刑法230条の2でこの調整が図られています。
・刑法230条の2 「前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」
・同条2項 「前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。」
・同条3項 「前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」
要するに、①事実が公共の利害に関するもので②公表した人の目的が専ら公益を図ることにあり③適示された事実が真実と証明された場合には、名誉毀損罪で処罰されません。
適示された事実が公訴提起前の犯罪行為に関する事実(テレビで報道される~容疑者逮捕等のニュース速報等)の場合は、その事実は①公共の利害に関する事実とみなされます。そのため被告人は、専ら公益を図ることにあった、内容が真実であることを証明すれば不可罰となります。
また、適示された事実が公務員や公務員に立候補する者(選挙に立候補した者等)に関する事実の場合は、①公共の利害に関する事実②専ら公益を図る目的であったとみなされます。そのため被告人は、内容が真実であることを証明すれば不可罰となります。