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バロン対ボルチモア事件:Barron v. Baltimore (1833)

Last Updated on 2020年10月16日

 アメリカ憲法に関する学習をしていると、Bill of Rights というワードをよく見ます。これは、アメリカ合衆国憲法が初めて改正された際(1791年)に追加された、修正第1~10条の規定を指します(アメリカの憲法改正は、Amendmentという章に、随時、新たな文言が追加されます)。これは、基本的人権を規定したものとして非常に有名で、日本の憲法も多大な影響を受けています。 

 

 ところで、日本の憲法の規定は、国だけでなく地方公共団体にも適用されます。他方、アメリカ合衆国憲法の規定は、連邦だけに適用されるのか、あるいは、連邦だけでなく州にも適用されるか否かが度々問題となります(以下の条文も参照)。バロン対ボルチモア事件は、この問題に対する判断を行った初期の判例です。この判例はBill of Rightsの規定が州に適用されることを否定したものとして有名です。 

 

Amendment Ⅹ 

The powers not delegated to the United States by the Constitution, nor prohibited by it to the states, are reserved to the states respectively, or to the people. 

(日本語訳)

修正第10条 

この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される。 

 

1.事案の概要 

 John Barronは、Baltimore市の沿岸に埠頭を所有していました。Baltimore市は沿岸の水の流れを変えるような工事を行い、その結果、埠頭の周辺に土砂が堆積し、埠頭に船をつけることが困難になりました。Barronは、Baltimore市に対する損害賠償を求める訴えを提起しました。 

 

2.判旨 

 Barronの主張は、Baltimore市は、アメリカ合衆国憲法第5条の定めに反し、正当な補償なしに個人の財産を奪ったというものです。 

 

Amendments Ⅴ 

No person shall be~nor shall private property be taken for public use, without just compensation. 

(日本語訳)

修正第5条 

何人も、~正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために収用されることはない。

 

*なお、この規定と同様の規定が日本国憲法にもあります。 

 

日本国憲法第29条 

私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。 

 

先述のように、修正第5条は、Bill of Rightsの1つです。この規定は州に適用されるのか否かが争点です。 

 

文言は、“何人も”となっていますが、法廷意見は、この規定は連邦のみを名宛人としており、州はこの規制に服さないとしました。理由として、合衆国憲法は、州の権限を規制する意図を持つ場合、”州は”と明記していることを挙げます。修正第5条は、“何人も”としているにとどまり、“州は”としていません。よって、この規定は連邦の権限に関する規定で、州に関するものではないということです。 

 

また、合衆国憲法に規定がなくても、もし各州や州に住む人々が、自由や財産を保護しようとするならば、州の憲法を改正し、その旨を明記すればいいとします。 

 

最高裁は、Bill of Rightsの規定は、州に適用がある旨の文言がない限り、州に適用されるものではないとしました。もっとも、後の憲法改正や、判例法理により、この解釈は実質的にひっくり返されることになります。現在では、Bill of Rightsの規定のほとんどは、州にも適用されます。 

 

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