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プリッグ対ペンシルベニア州事件:Prigg v Pennsylvania (1842)

Last Updated on 2020年10月16日

 かつてのアメリカ合衆国憲法は奴隷制を認めていました。確かに、北部の州は奴隷制に反対でしたが、南部を含めた合衆国連邦を設立するためにはやむをえなかったのです。 

 プリッグ対ペンシルベニア州事件は、憲法に明記された奴隷条項に基づき定められた逃亡奴隷法(Fugitive Slave Act)の合憲性が争われました。 

1.事案の概要 

 連邦が定める逃亡奴隷法は、奴隷を捕まえる者に、州をまたいで逃亡奴隷を捕まえる権限を与えていました。しかし、奴隷制に反対する北部の一部州は、この法律の効果を弱めるための法律を定めました(いわゆるPersonal Liberty Laws)。これらの法律は、逃亡した者が奴隷か否かを厳格な法定の手続きで確定しない限り、その者を勝手に捕らえることができないとするものでした。 

 

 奴隷であったMargaret Morganはメリーランド州(奴隷州)からペンシルベニア州(自由州)に逃亡しました。彼女の行為は、彼女の所有者である者の承認を受けていました。ところが、その所有者の死後、相続人である妻は、奴隷を捕らえる者であったEdward Priggをペンシルベニア州に送り、Morganをメリーランド州に連れ帰りました。ペンシルベニア州は、Priggを誘拐の罪で起訴しました。 

 

2.判旨 

 Priggは、逃亡奴隷法と異なる旨を定めるペンシルベニア州のPersonal Liberty Lawは憲法に反すると主張します。その主張の根拠として以下の規定を持ち出します。 

 

Article. Ⅵ. 

Clause 2: This Constitution, and the Laws of the United States which shall be made in Pursuance thereof; and all Treaties made, or which shall be made, under the Authority of the United States, shall be the supreme Law of the Land; and the Judges in every State shall be bound thereby, any Thing in the Constitution or Laws of any State to the Contrary notwithstanding. 

(日本語訳)

第6章【最高法規】 

第2項 

この憲法、およびこれに準拠して制定される合衆国の法律、ならびに合衆国の権限にもとづいて締結された、または将来締結されるすべての条約は、国の最高法規である。すべての州の裁判官は、 州の憲法または法律に反対の定めがある場合でも、これらのものに拘束される。

 

 ここに記載していることは、つまり、連邦法は州法に対して優越するという事です。 

 

もっとも、連邦法が合衆国憲法に反する場合は別です。連邦法が合衆国憲法に反する場合は、その法律は効果を有しません。そうすると、州法が連邦法に反するか否かは問題とはならないのです。そのため、最高裁は、逃亡奴隷法が合憲か否かを検討します。具体的には、連邦は、逃亡奴隷法を制定する権限を有するかです。 

 

Article. Ⅳ. 

Section. 2. 

Clause 3 

No Person held to Service or Labour in one State, under the Laws thereof, escaping into another, shall, in Consequence of any Law or Regulation therein, be discharged from such Service or Labour, but shall be delivered up on Claim of the Party to whom such Service or Labour may be due. 

(日本語訳)

第4章【連邦条項】 

第2条 

第3項 

1 州において、その州の法律によって役務または労務に服する義務のある者は、他州に逃亡しても、その州の法律または規則によってかかる役務または労務から解放されるものではなく、当該役務または労務を提供されるべき当事者からの請求があれば、引き渡されなければならない。 

*後に修正第13条で改正 

 

この文言を読んでも、連邦が逃亡奴隷法を制定できるか否かは、明示的には、明らかではありません。つまり、解釈によっては、逃亡奴隷に関する法律を定めることができるのは、連邦ではなく、州のみとする余地があります。 

しかし、最高裁は、連邦が逃亡奴隷法を定めることは、連邦の目的を達成するためにNecessary and Proper(マカロック対メリーランド州事件参照)なので、可能とします。 

 

結論として、逃亡奴隷法は合憲で、この法律に基づく権限の行使を妨げるペンシルベニアの法律は合衆国憲法に反するとしました。  

 

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