【判例解説】被害者の同意(総論):最決昭和55年11月13日

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【判例解説】被害者の同意(総論):最決昭和55年11月13日

Point
1.被害者の同意による違法性阻却は、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決する。

 

(関連条文)

・刑法204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

【争点】

・被害者の同意により違法性が阻却されるのは、いかなる場合か

 

1.判旨と解説

 

*傷害罪の解説はこちら

 

 被害者の同意とは、ある行為が犯罪に該当する場合でも、被害者の適法な同意があれば、保護法益は存在しないとして、犯罪は成立しないとするものです。刑法は、人の生命、身体、財産などの法益を保護することを使命としています。そのため、法益侵害が存在しない以上、行為者を処罰する必要はありません。そうすると、被害者が構成要件に該当する行為及び結果について同意している以上、行為者を処罰する必要はないとの考え方が出てきます。

 

 問題となるのは、同意があれば直ちに違法性が阻却されるかといった点です。例えば、AとBが共謀し、保険金詐欺をするために、AがBに傷害を負わせたといった場合に、Aに傷害罪が成立するでしょうか。

 

 自由な意思に基づく被害者の同意があれば、直ちに違法性が阻却されると考えれば、Aは不可罰になります。他方で、違法性阻却の判断は、行為者の目的や障害の手段等諸般の事情を考慮して行うべきと考えれば、違法性が阻却されないとする余地があります。

 

*行為無価値論と結果無価値論の解説はこちら

 

 本件最高裁判決の事案は、過失による自動車衝突事故であるかのように装い、保険金を得ようと考え、被害者の承諾を得て、その者に自動車を衝突させ傷害を負わせたといったものです。

 

 最高裁は、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきとします。そして、本件では、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであるとして、違法性が阻却されないとしました。

 

「なお、被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもつて、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであつて、これによつて当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である。」

 

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