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1. 一般的職務権限に属するが、具体的職務権限に属さない行為に関して賄賂を収受した場合に収賄罪が成立するとした事例 |
(関連条文)
・刑法197条1項前段 「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」
・警察法64条 「都道府県警察の警察官は法律に特別の定めがある場合を除き、管轄区域内において職権を行う」
【争点】
・被告人の賄賂の収受は、職務に関するものといえるか
1.判旨と解説
本件は、調布警察署に勤務する被告人が、多摩中央警察署管轄の刑事事件につき、有利かつ便宜な取り計らいを受けることを目的とする賄賂を収受したとして、収賄罪で起訴されました。
*賄賂罪の解説はこちら
賄賂罪が成立するには、職務に関して賄賂を収受等する必要があります。そして、その職務関連性の判断にあたっては、賄賂の対価である職務行為が、公務員の職務といえることが必要です。
職務というためには、その公務員の一般的職務権限に属していればよく、具体的職務権限の範囲外でもよいと考えられています。
本件の被告人は警察官です。警察官は、その管轄区域内において職務権限を有するところ(警察法64条)、この規定等を考慮すると、警視庁における警察官の犯罪捜査に関する職務権限は東京都全域に及んでいると解されています。そうすると、警視庁調布警察地域課に勤務する被告人は、同庁多摩中央警察署刑事課の担当する職務にも、一般的職務権限があるということになります。そのため、最高裁は職務関連性の要件の充足を認め、収賄罪の成立を認めました。
「被告人は,警視庁警部補として同庁調布警察署地域課に勤務し,犯罪の捜査等の職務に従事していたものであるが,公正証書原本不実記載等の事件につき同庁多摩中央警察署長に対し告発状を提出していた者から,同事件について,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたというのである。警察法64条等の関係法令によれば,同庁警察官の犯罪捜査に関する職務権限は,同庁の管轄区域である東京都の全域に及ぶと解されることなどに照らすと、被告人が,調布警察署管内の交番に勤務しており,多摩中央警察署刑事課の担当する上記事件の捜査に関与していなかったとしても,被告人の上記行為は,その職務に関し賄賂を収受したものであるというべきである。」