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【判例解説】公訴事実の同一性④(公訴の提起):最決昭和63年10月25日

Last Updated on 2022年7月6日

 

Point 
1.覚せい剤使用で起訴された事案について訴因変更がされ、公訴事実の同一性が認められた事案 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、「Aと共謀の上、法定の除外事由がないのに、昭和601026日午後530分ころ、栃木県芳賀郡a町bc番地の被告人方において、右Aをして自己の左腕部に覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン約0・04グラムを含有する水溶液約0・25ミリリツトルを注射させ、もつて、覚せい剤を使用した」という事実で起訴されました。 

 

検察官は、第一審において訴因の変更を請求し、その内容は、「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和60年10月26日午後6時30分ころ、茨城県下館市de番地のf所在スナツク『g』店舗内において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン約0・ 04グラムを含有する水溶液約0・25ミリリツトルを自己の左腕部に注射し、もつて、覚せい剤を使用した」というものでした。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法312条1項 「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」 

 

【争点】  

・両訴因に公訴事実の同一性は認められるか 

 

2.判旨と解説 

 

 本件で検察官は訴因変更請求をしていますが、公訴事実の同一性を欠く場合、訴因変更は認められません。 

 

*公訴事実と訴因の解説はこちら 

*訴因変更の可否についての解説はこちら 

 

 本件は覚せい剤使用事案です。 

 

覚せい剤の使用は、包括一罪とされる場合を除いては、各使用行為に一罪が成立し、各犯罪の関係は併合罪になると解されています。もっとも、実際に、犯行日時と場所が異なるとして、覚せい剤使用について訴因変更がされた場合、検察官は当初から1回の覚せい剤使用を起訴したものであると解釈し、訴因変更前後の覚せい剤使用の事実が非両立である(一方の使用行為の存在が認められた場合、もう一方の使用行為の存在は認められない)として、公訴事実の同一性を肯定する手法がとられています。 

 

 本件では、訴因変更前後において、犯行日時や、被告人の尿から覚せい剤が含まれていたことは共通します(両訴因のいう覚せい剤は同一のものである)。そして、検察官が起訴したのは、直近の覚せい剤使用1回についてであることを前提にすると、訴因変更前後の犯罪は非両立といえます。そのため、本件では公訴事実の同一性が肯定されました。 

 

「~記録によれば、検察官は、 昭和60年10月28日に任意提出された被告人の尿中から覚せい剤が検出されたことと捜査段階での被告人の供述に基づき、前記起訴状記載の訴因のとおりに覚せい剤の使用日時、場所、方法等を特定して本件公訴を提起したが、その後被告人がその使用時間、場所、方法に関する供述を変更し、これが信用できると考えたことから、新供述にそつて訴因の変更を請求するに至つたというのである。そうすると、両訴因は、その間に覚せい剤の使用時間、場所、方法において多少の差異があるものの、いずれも被告人の尿中から検出された同一覚せい剤の使用行為に関するもの であつて、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められるから、基本的事実関係において同一であるということができる。したがつて、右両訴因間に公訴事実の同一性を認めた原判断は正当である。」 

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