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【判例解説】被害・犯行再現状況等を記載した調書の証拠能力(証拠):最決平成17年9月27日 

Last Updated on 2022年9月13日

 

Point 
1.被害・犯行再現状況等を記載した調書、321条1項3号等の要件を充足した場合に証拠能力が認められるとされた事例 

 

1.事案の概要 

 

 本件で被告人は、いわゆる痴漢事件で起訴されました。その証拠として、①立証趣旨を「被害再現状況」とする実況見分調書(本件実況見分調書)②立証趣旨を「犯行再現状況」とする写真撮影報告書(本件写真撮影報告書)が請求されました。 

 

本件実況見分調書は警察署の通路において長いすの上に被害者と犯人役の女性警察官が並んで座って、被害者が電車内で隣に座った犯人から痴漢の被害を受けた状況を再現したものです。同調書には被害者の説明に沿って被害者と犯人役警察官の姿勢・動作等を順次撮影した写真12葉が各説明文付きで添付されていましたそのうち写真8葉の説明文には被害者の被害状況についての供述が録取されていました 

 

本件写真撮影報告書は警察署の取調室内において並べて置いた2脚のパイプいすの一方に被告人が他方に被害者役の男性警察官が座り被告人が犯行状況を再現したものです。同調書には被告人の説明に沿って被告人と被害者役警察官の姿勢・動作等を順次撮影した写真10葉が各説明文付きで添付されています。うち写真6葉の説明文には被告人の犯行状況についての供述が録取されています 

 

被告人の弁護人は本件実況見分調書及び本件写真撮影報告書(本件両書証)について,いずれも証拠とすることに不同意との意見を述べ両書証共通の作成者である警察官の証人尋問が実施されていますそして、証人尋問終了後検察官は本件両書証について、刑訴法321条3項により取り調べられたい旨の意見を述べこれに対し弁護人はいずれも「異議あり。」と述べています。 

 

第1審は本件両書証をいずれも証拠の標目欄に掲げているので、これらを有罪認定の証拠にしていることが認められます(原審も同様) 

 

(関連条文) 

刑事訴訟法320条1項 「第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。 

・321条1項 「被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 

3号 「2号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。 

・321条3項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第1項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。 

・322条1項 「被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。 

 

【争点】 

・本件両書証に証拠能力が認められるか 

 

2.判旨と解説 

 

 第1審、原審は、本件両書証を、刑事訴訟法321条3項により証拠能力を肯定しています。これは、本件両書証が検証、実況見分調書に該当することを理由とします。 

 

*証拠能力の解説はこちら 

*実況見分調書の証拠能力について判示した判例はこちら 

 

本件両書証は、被害者による被害再現状況を記載した実況見分調書と、加害者による犯行状況を記載した写真撮影報告書です。本件両書証とはいうものの、両者は証拠能力が付与される要件が異なりますので、個別に証拠能力を検討する必要があります。もっとも、共通する要件も多々あるので以下ではまとめて説明します。 

 

伝聞証拠にあたる証拠は、原則として証拠能力が認められません。 

 

*伝聞証拠の解説はこちら 

 

 本件両書証の立証趣旨は被害再現状況と犯行再現状況です。これは実質的には、再現された通りの犯罪事実の存在が立証事実となります。この証明は、本件両書証に記載された再現状況が起訴された犯罪事実と一致すること、すなわち真実であることを証明しようとする者です。そうすると、本件両書証は、その内容の真実性が問題になるものなので、全体として伝聞証拠にあたります 

 

 検証調書や実況見分調書には様々な記載されています。そのうち、検証等の結果を記載した部分については、捜査機関の者の供述書として、刑事訴訟法321条3項により証拠能力が認められます。 

 

*伝聞例外の解説はこちら 

 

他方で本件両書証に記載された被害者・被告人の供述は、本件では、独立の供述証拠としての価値を有するものなので、別途証拠能力が問題になります。それは以下の理由によります。 

 

検証調書や実況見分調書に、立会人の発言がある場合で、これが指示説明にあたるときは、伝聞性は問題になりません(*上記最判昭和36年5月26日)。立会人の供述の記載があり、これが指示説明にあたる場合には、その供述は検証の結果を記載したものといえ、独自の供述証拠として採用するものではないためです。 

 

他方で、これが指示説明を超えて現場供述にあたる場合には、伝聞性が問題となります。記載された供述が独立の証拠として内容の真実性が問題になる場合これは検証の結果ではなく別途の供述証拠としてみるべきだからです。別途の供述証拠としてみるべきというのは、公判において供述者を尋問し、その供述の真実性をチェックするべきということです(321条3項は、調書作成者の尋問しか要件となっていない。)。 

 

以上より、本件両書証が321条1項3号により証拠能力が肯定されても、これに記載された被害者・被告人の供述までも、直ちに証拠能力が肯定されることにはなりません。 

 

 また、本件両書証には、犯行状況を再現した写真が添付されています。現場写真などの証拠能力は、事件との関連性が認められれば証拠能力が肯定されます(最決昭和59年12月21日)。他方で本件のように、犯行再現状況を撮影した写真は、再現者の供述を動作としてとらえたものと評価できます。そうすると、このような場合の写真については、現場写真と同様に扱うのは妥当ではなく、供述証拠と同様に扱うべきと言えます。 

 

 最高裁は、本件両書証のような証拠の証拠能力については、刑事訴訟法326条の同意が得られない場合は、①321条3項の要件②現場供述と写真が伝聞証拠にあたることを前提に、再現者に対応して、321条以下の要件を満たす必要があるとします。 

 

前記認定事実によれば,本件両書証は,捜査官が,被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ,立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される。このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。 

 

なお、供述と異なり写真については、録取過程に誤りが生じる恐れが無いので、再現者の署名押印は不要とします。供述を録取した書面の場合、録取者の誤った認識により、誤った記載がされる等の可能性があり、これを排除するために供述者の署名押印が求められます。しかし、再現状況を動作で示したものを写真で撮影した場合、写真撮影は機械的に行われるため、その過程に誤りが入り込む余地はありません。そのため、写真については、署名押印の要件が不要となるのです。 

 

もっとも,写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。 

 

 本件両書証は共に321条3項の要件を満たしています。しかし共に供述録取部分について、再現者(被害者・被告人)の署名押印を欠くので、その部分につき証拠能力を有さないとします(321条1項柱書。322条1項) 

 

 他方、写真部分については、供述者の違いに対応して、以下のように判示しました。 

 

本件写真撮影報告書につき、被告人が任意に犯行再現を行ったことが認められるため証拠能力が認められる(322条1項)。 

・本件実況見分調書につき、署名押印を除く321条1項3号の要件を満たしていないため証拠能力が認められない 

 

 「本件両書証は、いずれも刑訴法321条3項所定の要件は満たしているものの,各再現者の供述録取部分については,いずれも再現者の署名押印を欠くため,その余の要件を検討するまでもなく証拠能力を有しない。また,本件写真撮影報告書中の写真は,記録上被告人が任意に犯行再現を行ったと認められるから,証拠能力を有するが,本件実況見分調書中の写真は,署名押印を除く刑訴法321条1項3号所定の要件を満たしていないから,証拠能力を有しない。 

 

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