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【判例解説】私人作成の鑑定書の証拠能力(証拠):最決平成20年8月27日 

Last Updated on 2022年9月12日

 

Point 
1.私人作成の鑑定証拠が、刑事訴訟法321条4項により証拠能力が認められるとされた事例。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法321条3項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。 

・同条4項 「鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。 

 

【争点】 

・私人作成の鑑定書に証拠能力が認められるか 

 

1.判旨と解説 

 

 本件では、消防士として15年間勤務していた者が作成した、燃焼実験報告書の証拠能力が争われました。 

 

 燃焼実験報告書のように、その内容の真実性が問題となる書面は伝聞証拠にあたります。そのため、刑事訴訟法321条以下の伝聞例外に該当しないかぎり、証拠能力が認められません。 

 

*証拠能力の解説はこちら 

*伝聞証拠の解説はこちら 

*伝聞例外の解説はこちら 

 

 第1審は、燃焼実験報告書について、実況見分に準ずるものとして、刑事訴訟法321条3項により証拠能力が認められるとしました(実況見分の結果を記載した書面は、同項により証拠能力が認められます。詳しくは、* 

 

*実況見分調書の証拠能力について判示した判例はこちら 

 

 しかし最高裁は、同項の主体が検察官等に限定されていることから、その準用を否定しました。もっとも、同書は同条4項の書面に準ずるものであるとして、結果的に証拠能力を肯定しました。 

 

記録によれば,本件の第1審公判において,本件非現住建造物等放火罪に係る火災の原因に関する「燃焼実験報告書」と題する書面の抄本(第1審甲100号証。以下「本件報告書抄本」という。)が,その作成者の証人尋問の後に,同法321条3項により採用されたところ,上記作成者は,私人であることが明らかである。原判決は,本件報告書抄本が,火災原因の調査を多数行ってきた会社において,福岡県消防学校の依頼を受けて燃焼実験を行い,これに基づく考察の結果を報告したものであり,実際に実験を担当した上記作成者は,消防士として15年間の勤務経験があり,通算約20年にわたって火災原因の調査,判定に携わってきた者であることから,本件報告書抄本は,捜査機関の実況見分に準ずるだけの客観性,業務性が認められ,同項を準用して証拠能力を認めるのが相当である旨判示した。しかしながら,同項所定の書面の作成主体は「検察官,検察事務官又は司法警察職員」とされているのであり,かかる規定の文言及びその趣旨に照らすならば,本件報告書抄本のような私人作成の書面に同項を準用することはできないと解するのが相当である。原判断には,この点において法令の解釈適用に誤りがあるといわざるを得ないが,上記証人尋問の結果によれば,上記作成者は,火災原因の調査,判定に関して特別の学識経験を有するものであり,本件報告書抄本は,同人が,かかる学識経験に基づいて燃焼実験を行い,その考察結果を報告したものであって,かつ,その作成の真正についても立証されていると認められるから,結局,本件報告書抄本は,同法321条4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有するというべきであり,前記法令違反は,判決に影響を及ぼすものではない。 

 

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