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【判例解説】自白の証拠能力②(証拠):最高裁昭和45年11月25日大法廷判決 

 

Point 
1.偽計によって心理的強制を受け、虚偽の自白が誘発されるおそれのある状態での自白は、任意性に疑いがあるため、証拠能力が否定される 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、銃刀法違反等の罪で取調べを受けていました。被告人の妻Bは、自分の一存で拳銃等を買い、自宅に隠匿所持していた旨を供述し、被告人も、本件拳銃はBが勝手に買ってもので、自分はそんなものは返せといっておいた旨を述べ、犯行を否認していました。 

 

その後検察庁における取調において、検察官は、まず被告人に対し、Bが自供をしていないのにかかわらず、Bが本件犯行につき被告人と共謀したことを自供した旨を告げて被告人を説得したところ、被告人が共謀を認めるに至りました。その後、Bに対し、被告人が共謀を認めている旨を告げて説得すると、Bも共謀を認めたので直ちにその調書を取りました。その後、更に被告人を取調べ、Bも共謀を認めているがまちがいないかと確認したうえ、その調書を取り、警察官に対し、もう一度被告人を調べ直すよう指示し、翌日取り調べた結果、被告人司法警察員に対する供述調書が作成されました。 

 

(関連条文)  

・憲法38条2項 「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。 

・刑事訴訟法319条1項 「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。 

 

【争点】 

 ・本件自白は証拠能力を有するか

 

2.判旨と解説 

  

 本件で検察官は、被告人の犯罪についてその妻が自供したとする虚偽の情報を告げ、被告人から自白を引き出しました。そこで、このような偽計によりされた自白に証拠能力を肯定できるかが問題となりました。 

 

*証拠能力についての解説はこちら 

  

 憲法は、刑事手続きの存在を認めています。当然のことながら、この手続きの現実の執行は憲法の理念に沿ったものでなければなりません。そうすると、不正に強制力を用いて自白を獲得することは許されません。これは、偽計によって証拠を獲得する場合にも同様です。 

 

 最高裁は、偽計を用いて被疑者から自白を獲得することは避けるべきであるとします。そして、偽計により心理的強制を受け、虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合自白は任意性に疑いがあるとして、証拠能力を否定すべきとします(自白法則の理論的根拠である虚偽排除説に親和的と言えます) 

 

*自白法則についての説明はこちら  

 

思うに、捜査手続といえども、憲法の保障下にある刑事手続の一環である以上、刑訴法一条所定の精神に則り、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ適正に行なわれるべきものであることにかんがみれば、捜査官が被疑者を取り調べるにあたり偽計を用いて被疑者を錯誤に陥れ自白を獲得するような尋問方法を厳に避けるべきであることはいうまでもないところであるが、もしも偽計によって被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、右の自白はその任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法三一九条一項の規定に違反し、ひいては憲法三八条二項にも違反するものといわなければならない。 

 

本件では、1で述べたように、検察官は被告人に偽計を用い、更に、被告人が自白すれば妻は処罰を免れるかもしれないと暗示し、被告人に心理的強制を加えた疑いがあります以上の事実を踏まえ、最高裁は被告人は、虚偽の自白が誘発される恐れが高い状態にあったので、このような状態でされた自白は任意性に疑いがあるとして、原判決を破棄差戻しました。 

これを本件についてみると、原判決が認定した前記事実のほかに、検察官が、被告人の取調にあたり、「奥さんは自供している。誰がみても奥さんが独断で買わん。参考人の供述もある。こんな事で二人共処罰される事はない。男らしく云うたらどうか。」と説得した事実のあることも記録上うかがわれ、すでに妻が自己の単独犯行であると述べている本件被疑事実につき、同検察官は被告人に対し、前示のような偽計を用いたうえ、もし被告人が共謀の点を認めれば被告人のみが処罰され妻は処罰を免れることがあるかも知れない旨を暗示した疑いがある。要するに、本件においては前記のような偽計によって被疑者が心理的強制を受け、虚偽の自白が誘発されるおそれのある疑いが濃厚であり、もしそうであるとするならば、前記尋問によって得られた被告人の検察官に対する自白およびその影響下に作成された司法警察員に対する自白調書は、いずれも任意性に疑いがあるものといわなければならない。 
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