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【判例解説】職務質問と立ち入り:(最高裁平成15年5月26日第1小法廷決定) 

 

Point 
1.職務質問に付随する行為として、ホテル客室内に立ち入る行為が許される場合がある。 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、8月11日の午後1時すぎ、ラブホテルAの301号室に一人で投宿しました。チェックアウト予定は12日の午前10時でしたが、予定時刻になっても被告人はチェックアウトの手続きをとりませんでした。ホテルの責任者Bは①被告人が入れ墨をしていたことから、暴力団関係者を宿泊させてしまい、いつ退去するか分からない状況になっているのではないかと懸念②被告人は清涼飲料水を5缶も注文したが、職務上の経験から飲料水を多量に飲む場合は薬物使用の可能性が高いと認識しており、被告人の薬物使用を懸念しました。 

Bは、再三にわたり、チェックアウト時刻を確認するため被告人に問い合わせをしましたが、返答は要領を得ず、被告人は「フロントの者です。」とドア越しに声をかけられると「うるさい。」と怒鳴り返し、料金の精算要求に対しては「この部屋は二つに分かれているんじゃないか。」と言うなど、不可解な言動をしていました。そこでBは警察に通報しました。 

12日午後1時半頃、司法巡査C、Dはホテルに到着し、被告人に対し職務質問を実施することにしました。Cは301号室に到着するとドアをたたきましたが、返事がありませんでした。部屋の鍵がかけられていなかったことから、ドアを開け内玄関に入り再度室内に向かって「お客さん、お金払ってよ。」と声をかけました。 

すると、被告人は内ドアを少しあけましたがすぐにこれを閉めました。Cは、被告人が全裸で入れ墨をしていることを確認したことに加え、制服姿の自分と目が合うや慌ててドアを閉めた被告人に不審を抱き、職務質問を継続するために、被告人が内側から押さえているドアを押し開け、内玄関と客室の境の敷居あたりに足を踏み入れ、内ドアが閉められるのを防止しました。 

その途端に被告人が殴りかかってきたので、CはDと共に被告人を掴み、室内のソファーに座らせ、Cが被告人の右足を、Dがその左足をそれぞれ両足ではさむようにして被告人を押さえつけました。このとき、被告人は右手に注射器を握っていました。 

Cは、被告人の目がつり上がった様子やその顔色も少し悪く感じられたこと等から、「シャブでもやっているのか。」と尋ねたところ、被告人は、「体が勝手に動くんだ。」、「警察が打ってもいいと言った。」などと答えました。そのころDは、被告人が右手に注射器を握っているのに気付き、Cが被告人の手首付近を握ってこれを手放させました。 

応援要請に基づき臨場したE巡査は、同室内の床に落ちていた財布や注射筒、注射針を拾って付近のテーブル上に置きました。警察官らが被告人に対し氏名等を答えるよう説得を続けるうち、被告人が氏名等を答えたので、犯罪歴の照会をしたところ、被告人には覚せい剤取締法違反の前歴のあることが判明しました。Fは、被告人に対し,テーブル上の財布について、「これはだれのだ。」などと質問し、被告人が自分の物であることを認めたので、Fは「中を見せてもらっていいか。」と尋ねました。説得を続けるうち、被告人の頭が下がったのを見て、Fは、被告人が財布の中を見せるのを了解したものと判断し、財布を開いて、ファスナーの開いていた小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見して抜き出しました。 

その後、薬物の専務員として臨場したG巡査は、被告人に対して覚せい剤の予試験をする旨告げた上で、被告人に見えるように同室内のベッド上でビニール袋入りの白色結晶につき予試験を実施しました。すると、覚せい剤の陽性反応があったので、同日午後2時11分、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕し、その場でビニール袋入りの白色結晶1袋、注射筒1本、注射針2本等を差し押さえました。C、D両巡査は、逮捕に至るまで全裸の被告人を押さえ続けていましたが、仮に押さえるのをやめた場合には、警察官側が殴られるような事態が予想される状況にありました。 

 

(関連条文)  

・警察官職務執行法2条1項 「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」 

・同法2条2項 「その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。」  

 

2.判旨と解説 

 

*職務質問・所持品検査についての解説はこちら 

 

 警察官は、私人に職務質問をすることができます(警職法2条1項)。また、職務質問をするために、停止や同行(警職法2条2項)を求めることができます。それでは、職務質問に際して、停止・同行以外の行為を求めるのは可能なのでしょうか。 

 

 この点、職務質問に付随するものとして、所持品検査を行うことは可能と解されています。そして本件では、職務質問の際にホテルの客室に入ることが許されるかが問題となります。 

 

 最高裁は、宿泊客の意思に反して、ホテル客室内に入ることは原則として許されないとします。 

 

「一般に,警察官が警察官職務執行法2条1項に基づき,ホテル客室内の宿泊客に対して職務質問を行うに当たっては,ホテル客室の性格に照らし,宿泊客の意思に反して同室の内部に立ち入ることは,原則として許されないものと解される。」 

 

 しかし、本件の以下の事情を踏まえると、被告人の行動に接した警察官らが無銭宿泊や薬物使用の疑いを深めるのは無理からぬので、質問を継続し得る状況を確保するため、内ドアを押し開け、内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ、内ドアが閉められるのを防止したことは、警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして,適法な措置であったとしました。 

 

①退出予定時刻を過ぎても被告人はチェックアウトをしない 

②ホテル責任者に不審に思われ110番通報され、被告人を退去させてほしい旨の要請を受けていた 

③①②より、被告人は通常の宿泊客とは見られない状況になっていた 

④警察官の侵害態様は、無施錠の外ドアをあけて内玄関に入ったものであった 

料金支払いを督促する来意を告げたのに対し、被告人は納得のいく説明をせず、制服姿の警察官に気づくやいなや内ドアを急に閉めて押さえるという不審な行動に出た 

 

「しかしながら,前記の事実経過によれば,被告人は,チェックアウトの予定時刻を過ぎても一向にチェックアウトをせず,ホテル側から問合せを受けても言を左右にして長時間を経過し,その間不可解な言動をしたことから,ホテル責任者に不審に思われ,料金不払,不退去,薬物使用の可能性を理由に110番通報され,警察官が臨場してホテルの責任者から被告人を退去させてほしい旨の要請を受ける事態に至っており,被告人は,もはや通常の宿泊客とはみられない状況になっていた。そして,警察官は,職務質問を実施するに当たり,客室入口において外ドアをたたいて声をかけたが,返事がなかったことから,無施錠の外ドアを開けて内玄関に入ったものであり,その直後に室内に向かって料金支払を督促する来意を告げている。これに対し,被告人は,何ら納得し得る説明をせず,制服姿の警察官に気付くと,いったん開けた内ドアを急に閉めて押さえるという不審な行動に出たものであった。このような状況の推移に照らせば,被告人の行動に接した警察官らが無銭宿泊や薬物使用の疑いを深めるのは,無理からぬところであって,質問を継続し得る状況を確保するため,内ドアを押し開け,内玄関と客室の境の敷居上辺りに足を踏み入れ,内ドアが閉められるのを防止したことは,警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問に付随するものとして,適法な措置であったというべきである。」 

 

ここで職務質問に付随する行為として適法な措置であったとしたのは、内ドアを押し開け内ドアが閉められるのを防止した措置です。それでは、その後内ドアの内部にまで立ち入った行為についてはどうでしょう。これについては、被告人の暴行を契機とするものであるから、上記結論を左右するものではないとしました。 

 

「本件においては,その直後に警察官らが内ドアの内部にまで立ち入った事実があるが,この立入りは,前記のとおり,被告人による突然の暴行を契機とするものであるから,上記結論を左右するものとは解されない。」 

 

さて、警察官は、その後被告人が所持している財布を開いて、ファスナーの開いていた小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見して抜き出しています。この措置は適法でしょうか。 

 

最高裁は所持品検査が許されるという判例を踏襲します。 

 

「職務質問に付随して行う所持品検査は,所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが,捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り,たとえ所持人の承諾がなくても,所持品検査の必要性,緊急性,これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。」 

 

①被告人が不可解なことを口走り、手には注射器を握っていた 

②被告人が覚せい剤取締法違反の前歴を有していた 

③①②より、被告人に対する覚せい剤事犯の嫌疑が飛躍的に高まっていた 

④このような状況では、覚せい剤がその場に存在することが強く窺われ、直ちに証拠保全策をとらなければ、これが散逸する可能性が高い 

⑤警察官の措置について、被告人は明確な拒否の意思を示していない 

所持品検査の態様は、床に落ちていたのを拾ってテーブル上に置いておいた財布について、二つ折りの部分を開きファスナーの開いていた小銭入れの部分から、ビニール袋入りの白色結晶を発見して抜き出したという限度にとどまるものであった 

「前記の事実経過によれば,財布に係る所持品検査を実施するまでの間において,被告人は,警察の許可を得て覚せい剤を使用している旨不可解なことを口走り,手には注射器を握っていた上,覚せい剤取締法違反の前歴を有することが判明したものであって,被告人に対する覚せい剤事犯(使用及び所持)の嫌疑は,飛躍的に高まっていたものと認められる。また、こうした状況に照らせば,覚せい剤がその場に存在することが強く疑われるとともに,直ちに保全策を講じなければ,これが散逸するおそれも高かったと考えられる。そして,眼前で行われる所持品検査について,被告人が明確に拒否の意思を示したことはなかった。他方,所持品検査の態様は,床に落ちていたのを拾ってテーブル上に置いておいた財布について,二つ折りの部分を開いた上ファスナーの開いていた小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見して抜き出したという限度にとどまるものであった。以上のような本件における具体的な諸事情の下においては,上記所持品検査は,適法に行い得るものであったと解するのが相当である。」 

 

ところで、本件では、所持品検査によって獲得した証拠の証拠能力が争点となっていました。そのため、ここまで職務質問に付随する立ち入りや所持品検査の適法性が問題となっていたのです。 

 

*証拠能力の解説はこちら 

*違法収集証拠排除法則の解説はこちら 

 

最後に裁判所は、被告人を全裸のまま座らせ続けた措置についての適法性についても判示しています。当該措置は、職務質問に付随するものとしては許容限度を超えているが、結局のところ、証拠の排除に結びつくものではないとしました。 

 

「なお,警察官らが約30分間にわたり全裸の被告人をソファーに座らせて押さえ続け,その間衣服を着用させる措置も採らなかった行為は,職務質問に付随するものとしては,許容限度を超えており,そのような状況の下で実施された上記所持品検査の適否にも影響するところがあると考えられる。しかし,前記の事実経過に照らせば,被告人がC巡査に殴りかかった点は公務執行妨害罪を構成する疑いがあり,警察官らは,更に同様の行動に及ぼうとする被告人を警察官職務執行法5条等に基づき制止していたものとみる余地もあるほか,被告人を同罪の現行犯人として逮捕することも考えられる状況にあったということができる。また,C巡査らは,暴れる被告人に対応するうち,結果として前記のような制圧行為を継続することとなったものであって,同巡査らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があった証跡はない。したがって,上記行為が職務質問に付随するものとしては許容限度を超えていたとの点は,いずれにしても,財布に係る所持品検査によって発見された証拠を違法収集証拠として排除することに結び付くものではないというべきである。」 

 

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