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【判例解説】弾劾証拠(証拠):最高裁平成18年11月7日第三小法廷判決 

Last Updated on 2021年1月4日

 

Point 
1.刑事訴訟法328条で証拠能力が肯定される証拠は、自己矛盾供述に限られる。 

2.別の機会に異なる供述をしたという事実の立証については、刑訴法の定める厳格な証明を要する 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、現住建造物等放火罪等の罪責で起訴されました。 

 

第1審において,証人A公判での証言の後弁護人が証人Bが作成した「聞込み状況書」(以下本件書証)証拠請求をしました。本件書証は証人B事件当日のAの発言内容を聞き取ったもので、これは公判でAがした証言と矛盾する内容のものでした。なお、本件書面には、Bの記名押印はありましたが、Aの署名押印等はありませんでした。 

 

第1審は、本件書面は刑事訴訟法328条の書面に当たらないとして請求を却下しました。原判決は第1審の証拠請求却下を是認する判断をしました。 

 

(関連条文) 

 

・刑事訴訟法320条1項 「321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。 

 

・刑事訴訟法328条 「321条乃至第324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。 

 

2.判旨と解説 

 

 刑事訴訟法328条は、刑事訴訟法321条から324条(伝聞例外)に該当しない証拠に、証拠能力が認められる場合について定めています(弾劾証拠)。 

 

*弾劾証拠の解説はこちら 

*伝聞証拠の解説はこちら 

*伝聞例外の解説はこちら 

 

 もっとも、本条で証拠能力が肯定される証拠は自己矛盾供述に限られるか(限定説)、これに限られないかが争われてきました(非限定説)。 

 

 非限定説は、条文に何ら限定がかけられていないことを根拠とします。他方、限定説は以下のように述べます。すなわち、供述者自身による証言の場合、自己矛盾供述をした事実から証拠の信用性を争うことができる。しかし、この規定の対象を供述者以外の者に広げた場合、その者の供述自体ではなくその内容が真実であることを一応前提として証拠の信用性を争うことになり、伝聞証拠の趣旨を没却することになってしまう、と。 

 

 簡略化して説明します。例えば、Xが「AがBを殺しているのを見た」と公判で証言したとします。他方、Xは事件直後の取調べで、「AがBを殺しているのを見ていない証言しており、これを内容とする調書が作成されていたとします。この場合、取調べで話した内容が真実か否かは問題となりません。矛盾した証言をしたこと自体が問題で、その事実からXの供述の信用性を争うことができます 

 

 他方、Xが「AがBを殺しているのを見た」と公判で証言したが、他方、Yが事件直後の取調べでAがBを殺しているのを見ていない」と証言しており、これを内容とする調書が作成されていたとします 

 

先ほどの例の場合、Xの発言内容の真実性は問題となりませんでした。矛盾した証言をした事実自体から、Xの証言内容の真実性に疑義が生じるからです。 

 

しかし、今回の例の場合、Xの証言内容の信用性に疑義が生じるのはYの証言内容が真実であった場合です。Yの証言内容が真実であって初めてXの証言の信用性に疑いが生じるのであって、YがXの証言と異なる内容の証言をした事実自体からはこの問題は発生しません 

 

この場合にYの証言を刑事訴訟法328条に該当するとしてしまうと被告人が公判で罪責を否認した場合これと異なる事実を示す全ての証拠(検面調書、員面調書等)が、同条に該当するとして証拠請求されることとなってしまい、伝聞証拠の趣旨を没却してしまいますこの場合、Y証言を証拠としたいのであれば、Yを証人尋問すればいいのです 

 

 最高裁は、本件で限定説に立つことを明言しました。もっとも、別の機会に矛盾する供述をしたという事実については、刑訴法の定める厳格な証明を要するとしました。 

 

刑訴法328条は,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり,別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。そうすると,刑訴法328条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。 

 

本件書面には、供述録取者Bの記名押印はありますが、供述者であるAの署名押印がなく、またこれと同視しうる事情もないから、同条により証拠能力を肯定することはできないとしました。 

 

本件書証は,の供述を録取した書面であるが,同書面には同人の署名押印がないから上記の供述を録取した書面に当たらず,これと同視し得る事情もないから,刑訴法328条が許容する証拠には当たらないというべきであり,原判決の結論は正当として是認することができる。 

 

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