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[解説] 写真・ビデオ撮影の適法性(捜査):最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定

Last Updated on 2020年10月17日

Point 
1.公道上等において行われた被疑者に対する写真・ビデオ撮影を適法とした。 

1.事案の概要 

被告人は金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどしました。その後、被告人が本件にかかわっている疑いが生じ,警察官は、防犯ビデオに写っていた人物と被告人との同一性を判断するため,被告人の容ぼう等をビデオ撮影することとしました。そして、捜査車両の中や、付近に借りたマンションの部屋から,公道上を歩いている被告人をビデオカメラで撮影しました。 

 

さらに,警察官は,防犯ビデオに写っていた人物がはめていた腕時計と被告人がはめている腕時計との同一性を確認するため,被告人が出入りしていたパチンコ店の店長に依頼し,店内の防犯カメラや警察官の小型カメラを用いて,店内の被告人をビデオ撮影しました。 

 

また,警察官は,被告人及びその妻がごみ集積所に出したごみ袋を回収し,そのごみ袋の中身を警察署内において確認し,防犯ビデオに写っていた人物が着用していたものと類似するダウンベスト,腕時計等を発見し,これらを領置(遺留された、あるいは任意提出された証拠を取得する処分)しました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法197条1項:捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。 

・刑事訴訟法221条:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。 

 

【論点】 

・公道上等における、被疑者の写真・ビデオ撮影は適法か 

・本件領置処分は適法か 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

最高裁は、捜査機関による写真・ビデオ撮影は以下の理由により、捜査目的達成のために必要かつ相当な方法で行われたものであったため適法であるとします。 

なお、これは本件における写真・ビデオ撮影が強制処分(197条1項但書)でないことを前提としています(強制処分と解すると、本件写真・ビデオ撮影は特別の定めのある場合に当たらず、違法となる)。 

①被告人が犯人であるとの疑いを持つ合理的な理由があった 

②ビデオ撮影が、被告人の容貌等など、犯人特定のために必要な証拠入手のため必要な限度で行われた 

③撮影された場所は公道上や不特定多数が集まるパチンコ店であり、これらの場所は人から容貌等を観察されることを受任せざるを得ない 

 

「…前記事実関係及び記録によれば,捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。」 

 

また、領置については、上記ごみ袋はごみ集積場に出されており占有が放棄されているから(占有が被告人らにある場合、無断で領置することはできない)、これを遺留物として留置することは適法としました。 

 

「ダウンベスト等の領置手続についてみると,被告人及びその妻は,これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたものであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。」 

 

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