故意とは、罪を犯す意思をいいます(刑38条1項)。刑法は、故意犯処罰の原則をとっており、たとえ何らかの法益を侵害しても、故意が無い場合には行為者を処罰しないことを原則としています。
・刑法38条1項 「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」
故意があれば「その行為をしてはいけない」と考え、当該行為をやめることができます。それにもかかわらず、あえて当該行為を実行した者には、強い非難(刑罰)を与えることができます。それゆえ、刑法は故意犯処罰の原則をとっています。したがって、例えば、非常に悪質な行為(飲酒運転運転等)によって人を死亡させた場合でも、死について認識がなければ、殺人罪で処罰することはできません。これが現行刑法の立場です。
もっとも、以下で述べるように、故意がないからといって、必ずしも不可罰なるわけではありません。その例が過失犯です。
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通説によると、犯罪事実の認識・予見があった場合には故意が認められます。
例① Xは、ナイフを振り回していたら、通りかかったYにナイフが当たり、Yは死亡した。Xは、Yの存在もYにナイフが当たり死亡することも認識していなかった。
Xは、自分がナイフを振り回していることについては自ら認識していたはずです。しかし、Yにナイフが当たることや、Yが死亡することまでは認識していませんでした。そのため、この場合、Xに殺人罪(刑199条)は成立しません。
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例② Xは、Yを痛めつけてやろうと考え、Yを殴打した。すると、当たり所が悪かったYは死亡した。
この場合、Xに死について故意はないため、殺人罪は適用されません。もっとも、Xには傷害致死罪(刑205条)は成立します。
・刑法205条 「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。」
傷害致死罪は結果的加重犯(結果について認識していなくとも、基本犯(ここでいう暴行罪・傷害罪)の実行行為から結果が生じた場合には、基本犯より重い刑罰が科される犯罪)なので、死について故意がなくとも、同罪が成立します。刑法205条が、刑法38条1項但書のいう「特別の規定」に該当するため、結果について認識がなくとも、同罪で処罰することが許容されるのです。
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例③ Xが街を歩いていたら知り合いのYと出会った。YはXとハイタッチをしようとしたが、Xは殴られるかと思い、自らの身を守るためにYを殴ってYを負傷させた。
Xの行為は暴行罪に該当します。しかし、Xは、これを正当防衛(刑36条)にあたると考えています(このように、正当防衛となる事情が存在しないのに、これを存在すると思っていた場合を誤想防衛と言います)。この場合、Xには、暴行をしている認識はあります。
他方でXは、これは正当防衛状況にあること、すなわち違法性阻却事由があることも認識しています。通説によると、違法性阻却事由が存在するとの認識がある場合には、故意が阻却されます。そのため、この場合、Xに暴行罪・傷害罪は成立しません(なお、過失犯の問題は残ります。)。
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