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1.本件における約束による自白は、証拠能力を欠く |
1.事案の概要
被告人は、受託収賄の事実で逮捕されました。
被告人に賄賂を贈ったAの弁護人は、本件の担当検察官である検事から、「被告人が見えすいた虚構の弁解をやめて素直に金品収受の犯意を自供して改悛の情を示せば、起訴猶予処分も十分考えられる案件である旨内意を打ち明けられ、且つ被告人に対し無益な否認をやめ卒直に真相を自供するよう勧告したらどうか」という趣旨の示唆を受けました。そこで、被告人に面接し、『検事は君が見えすいた嘘を言っていると思っているが、改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っているから、真実貰ったものなら正直に述べたがよい。馬鹿なことを言って身体を損ねるより、早く言うて楽にした方がよかろう。』と勧告したところ、被告人は、これを信じ起訴猶予になることを期待した結果、その後の取調べから順次金品を貰い受ける意図のあったことおよび金銭の使途等について自白するに至りました。
(関連条文)
・憲法38条2項 「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」
・刑事訴訟法319条1項 「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」
【争点】
・本件被告人の自白を証拠とすることができるか
2.判旨と解説
本件で被告人は、検察官が起訴猶予にする余地があるという旨の陳述に基づいて自白をしているところ、この自白に「任意にされたもの」と言えるかが問題となりました。自白の任意性が否定された場合、被告人の自白は証拠能力が欠けるため、これを公判で証拠とすることはできません。
*証拠能力についての解説はこちら
憲法38条2項の規定を受け、刑事訴訟法319条1項は、任意性に疑いのある自白については、証拠とすることができないと定めています。
任意性に疑いのある自白が排除される根拠については、学説上、①虚偽排除説②人権擁護説③違法排除説といった見解があります。
*自白法則についての解説はこちら
本件で最高裁は、①検察官が起訴猶予にする旨を述べたこと②被告人がこれを信じて自白をした点(①②に因果関係がある)を捉えて、被告人の自白には任意性に疑いがあるとして、証拠能力を欠くと判示しましたが、その根拠については判示しませんでした(なお、判決に影響を及ぼさないとして、上告棄却としました。)。
↓以下原文
「本件のように、被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である。しかしながら、右被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書を除外しても、第一審判決の挙示するその余の各証拠によって、同判決の判示する犯罪事実をゆうに認定することができるから、前記判例違反の事由は、同四一〇条一項但書にいう判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合に当り、原判決を破棄する事由にはならない。」