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1.防衛行為者が積極的加害意思を有する場合、侵害の急迫性が否定される |
1.事案の概要
政治団体に所属するXらは集会のためにホールに集まったところ、対立する政治団体に属するAらから襲撃を受けました。Xらは、木刀、鉄パイプで反撃し、Aらを撃退しました(第一暴行)。Xらは、Aらはもう一度襲撃してくると考え、ホールの入り口にバリケードを築いていました。すると、Aらが再び来襲し、バリケード越しに鉄パイプを投げてくるなどしたので、Xらは、鉄パイプで突く等の反撃をしました(第二暴行)。
(関連条文)
・刑法36条1項 「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」
・同条2項 「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」
【争点】
・Xらの第二暴行に正当防衛が成立するか
2.判旨と解説
本件においてXらは、Aによる第二暴行が後に行われることを予見しています。そこで、侵害を予期していた場合にも侵害の急迫性が肯定されるかが問題になりました(罪名は、凶器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反)。侵害の急迫性が否定された場合には、正当防衛はおろか、過剰防衛すら成立する余地はありません。
*正当防衛の解説はこちら
*過剰防衛の解説はこちら
*急迫不正の侵害について判断した最近の判例はこちら
侵害を予期した場合に、侵害の急迫性が否定され正当防衛は成立しないとすると、侵害を予期した者に何もしない、あるいは、その場から立ち去ることを義務付けることになります。これは妥当ではありません。そのため、侵害を予期しただけでは、侵害の急迫性は否定されないとされます。
もっとも、急迫不正の侵害を認識したが、これを機会に相手に加害行為をする意思で防衛行為を行った場合、もはや防衛行為ではなく防衛に名を借りた、ただの侵害行為と評価できます。
そこで判例は、積極的加害意思で侵害行為に臨んだ場合には、侵害の急迫性が否定され、正当防衛は成立しないと判示しました。
↓以下原文
「・・・刑法三六条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから、当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではないと解するのが相当であり、これと異なる原判断は、その限度において違法というほかはない。しかし、同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて、単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。そうして、原判決によると、被告人Aは、相手の攻撃を当然に予想しながら、単なる防衛の意図ではなく、積極的攻撃、闘争、加害の意図をもつて臨んだというのであるから、これを前提とする限り、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきであって、その旨の原判断は、結論において正当である。」