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1.場所に対する捜索令状で、その場にいる者が所持する物に対して捜索をすることが許される場合がある |
1.事案の概要
Xの内妻であるAには覚せい剤取締法違反の嫌疑がありました。そこで捜査機関は、XとAが居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押えを行いました(被疑者はA)。その際、捜査機関は、Xが携帯するボストンバックの中身も捜索し、その中から覚せい剤が発見されました。Xは覚せい剤所持罪で現行犯逮捕されました。
(関連条文)
・刑事訴訟法218条1項 :「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」
・刑事訴訟法219条1項 :「前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押えるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。」
【争点】
・場所に対する捜索差押令状に基づき、その場にいる者の所持する物を捜索することは許されるか
2.判旨と解説
※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。
*捜索差押えについての説明はこちら
*捜索中、配達された物に対して捜索令状の効力が及ぶか否かが争われた判例についてはこちら
捜索差押令状には、捜索すべき場所が記載されます(刑訴219条1項)。捜索に際して、令状に記載された場所にある物は、原則として、全て捜索の対象に含まれます。裁判官は、場所に対する捜索令状の発付の際に、そこにある物の捜索も許可していると考えられるからです。そのため、例えば、家にあるタンスや冷蔵庫、本棚は全て捜索の対象となります。
それでは、場所に対する捜索において、その場にいる者が所持する物を捜索することは許されるのでしょうか?
この点、場所に対する捜索令状で、人の身体を捜索することは原則として許されないと解されています。人の身体は、「場所」の概念に含まれず、また、裁判官も場所に対する令状発付の際に人の身体の捜索を許可しているとは言えないからです。
もっとも、捜索場所にある物は全て捜索の対象になることは先述の通りです。そうすると、捜索場所にある物が、たまたまそこにいる者が所持している状態にあった場合、捜索対象から外れると解するのは妥当ではありません。
最高裁は、本件事情においては、Xが所持するボストンバックに対する捜索を適法であるとしました。もっとも、本件ではX及びAが住む場所の捜索において、Xの所持する物に対する捜索が認められたにすぎません。そのため、隣接する論点、例えば、その場にいた全く関係のない第三者の所持品に対する捜索の許容性等については、この判例の射程外です。
「なお、原判決の是認する第一審判決の認定によれば、京都府中立売警察署の警察は、被告人の内妻であったAに対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け、平成三年一月二三日・右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが、その際、同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって、右のような事実関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当であるから、これと同旨に出た第一審判決を是認した原判決は正当である。」