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1.包括的な差押えは、一定の場合許容される。 |
1.事案の概要
宗教団体Aの信者である被疑者Xは、自動車登録ファイルに自動車の使用の本拠地について不実の記録をさせ、これを備え付けました。そこで捜査機関は、電磁的公正証書原本不実記録等(刑法157条1項)の被疑事実で、捜索差押許可状を求めました。これに基づき、司法警察職員が申立人からパソコン一台、フロッピーディスク合計108枚等を差し押さえました。
(関連条文)
・刑事訴訟法222条1項 :「第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によってする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によってする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。」
・刑事訴訟法99条1項 「裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。」
【争点】
・被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性のあるパソコン、大量のフロッピーディスク等を、内容を確認せずに包括的に差押えることは許容されるか
2.判旨と解説
※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。
*差押えについての解説はこちら
差押えは、証拠物と思料するものに対して行われます(上記刑訴222条1項、99条1項)。そこで、捜査機関は、差押えをするにあたっては、差押えようとする者が被疑事実に関する証拠物に当たるか否か等を確認しなければなりません。これは、対象物がパソコン等の電子機器である場合も同様です。つまり、これらの差押えに際しては、パソコンやフロッピーディスクに記録されている情報を一度確認するのが原則です。
もっとも、場合によっては、差押え対象であるパソコン等の中身を確認していては差押えの目的を達成できない場合があります。例えば本件では、被疑者らが、パソコン等に記録されている情報を瞬時に消すソフトを開発しているという情報があり、そのため、差押えに際して対象物の中身を確認している際に情報を消去される可能性がありました。
このような場合には、差押えの実効性を確保する必要があります。
そこで、最高裁は、差押えの対象となったパソコン等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められ、その場で内容を確認していたのでは情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに、包括的に差押えをすることが許されるとしました。
「原決定の認定及び記録によれば、右許可状には、差し押さえるべき物を「組織的犯行であることを明らかにするための磁気記録テープ、光磁気ディスク、フロッピーディスク、パソコン一式」等とする旨の記載があるところ、差し押さえられたパソコン、フロッピーディスク等は、本件の組織的背景及び組織的関与を裏付ける情報が記録されている蓋然性が高いと認められた上、申立人らが記録された情報を瞬時に消去するコンピュータソフトを開発しているとの情報もあったことから、捜索差押えの現場で内容を確認することなく差し押さえられたものである。令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押さえることが許されるものと解される。したがって、前記のような事実関係の認められる本件において、差押え処分を是認した原決定は正当である。」