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【判例解説】違法収集証拠排除法則②(証拠):最高裁昭和61年4月25日第二小法廷判決 

 

Point 
1.先に行われた手続が違法の場合、これに引き続き行われた手続が違法と評価されること 

がある 

 

1.事案の概要 

 

 警察官ら3名は、覚せい剤事犯の前科のある被告人Aが再び覚せい剤を使用しているとの情報を得たため、私服で警察用自動車を使って、被告人宅に赴きました。門扉を開けて玄関先に行くと、引戸を開けずに「Aさん、警察の者です」と呼びかけ、更に引戸を半開きにして「生駒署の者ですが、一寸尋ねたいことがあるので、上ってもよろしいか」と声をかけました。それに対し被告人の明確な承諾があったとは認められないにもかかわらず、屋内に上がり、被告人のいた部屋に入りました 

 

警察官は、ベツトで目を閉じて横になっていた被告人の枕許に立ち、「Aさん」と声をかけて左肩を軽く叩くと、被告人が目を開けたので、同行を求めたところ、金融屋の取立てだろうと認識した被告人は、「わしも大阪に行く用事があるから一緒に行こう」と言い、着替えを始めたので、警察官は、自動車の運転席後方の後部座席に乗車させ被告人宅を出発しました。 

 

被告人は、車中で同行しているのは警察官達ではないかと考えたが、反抗することもなく、一行は警察署に着きました事情聴取で被告人は、本件覚せい剤使用の事実を認め、採尿を行ってこれを提出し、腕の注射痕も見せました。被告人は、警察署に着いてから右採尿の前と後の少なくとも二回、持参の受験票を示すなどして、タクシー乗務員になるための地理試験を受けることになっている旨申し出ましたが、同巡査部長は、最初の申し出については返事をせず、尿提出後の申し出に対しては、「尿検の結果が出るまでおったらどうや」と言って応じませんでしたその後鑑定結果について電話回答があったことから、逮捕状請求の手続をとり、被告人を通常逮捕しました。  

 

(関連条文)  

・憲法31条 「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。 

・憲法33条 「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。 

・憲法35条1項 「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 

・刑事訴訟法1条 「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」 

 

 

【争点】   

・本件尿の鑑定書に証拠能力はあるか 

 

2.判旨と解説 

 

 本件では、被告人の採尿手続き自体を単独で見れば、被告人の任意の意思に基づくものなので、適法と評価することができます。しかし、採尿手続き前の被告人宅への立ち入りや、明確な同意を得ずに行った警察署への任意同行、被告人が退去の申し出たにもかかわらず警察署へ留め置いた行為(以下、先行行為)については、適法性に疑義が生じます。 

 

 そこで、採尿手続き前に行われた先行行為が適法違法な場合後に行われた採尿手続きの法的評価に影響を与えるか採尿手続きが違法と評価された場合に尿の鑑定書の証拠能力が欠けることとなるかが問題となりました。 

 

*証拠能力の解説はこちら 

 

 最高裁は、先行行為が被告人に対する覚醒剤事犯の捜査という同一目的に向けられたもので、採尿手続は先行行為によりもたらされた状態を直接利用していることから、採尿手続きの適法性の判断については、先行行為の違法性の有無、程度を考慮すべきだとします。 

 

本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。 

 

上記判断の結果、採尿手続が違法と判断された場合でも、尿の鑑定書の証拠能力が直ちに否定されるわけではありません。証拠能力が否定されるのは違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なもので、これを証拠とすることが将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でない場合です。 

 

そして、そのような判断の結果、採尿手続が違法であると認められる場合でも、それをもつて直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、右鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、右鑑定書の証拠能力が否定されるというべきである(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七日第一小法廷判決・刑集三二巻六号一六七二頁参照)。 

 

*引用判例の解説はこちら 

 

 最高裁は、本件における先行行為は、いずれも任意捜査の域を超えており違法であるとします。そうすると、先行行為と同一目的で行われ、先行行為により創出された状態を直接利用して行われた採尿手続違法と評価されます。 

 

しかしながら、以下の事情から尿の鑑定書の証拠能力は否定されないとしました。 

 

警察官は当初から被告人宅へ無断で立ち入るつもりはなかった 

②玄関先で被告人に声をかけるなど被告人の承諾を求める行為に出ていること 

③任意同行に際して有形力の行使がないこと、 

被告人が、周りにいる者が警察官と気付いた後も異議を述べていない 

被告人による受験の申し出に応答しなかったが、それ以上に警察署に留まることを強要していないこと 

⑥採尿手続き自体は、何ら強制されること無く被告人の自由な意思で行われていること 

 

以上の見地から本件をみると、採尿手続前に行われた前記一連の手続には、被告人宅の寝室まで承諾なく立ち入っていること、被告人宅からの任意同行に際して明確な承諾を得ていないこと、被告人の退去の申し出に応ぜず警察署に留め置いたことなど、任意捜査の域を逸脱した違法な点が存することを考慮すると、これに引き続いて行われた本件採尿手続も違法性を帯びるものと評価せざるを得ない。しかし、被告人宅への立ち入りに際し警察官は当初から無断で入る意図はなく、玄関先で声をかけるなど被告人の承諾を求める行為に出ていること、任意同行に際して警察官により何ら有形力は行使されておらず、途中で警察官と気付いた後も被告人は異議を述べることなく同行に応じていること、警察官において被告人の受験の申し出に応答しなかつたことはあるものの、それ以上に警察署に留まることを強要するような言動はしていないこと、さらに、採尿手続自体は、何らの強制も加えられることなく、被告人の自由な意思での応諾に基づき行われていることなどの事情が認められるのであって、これらの点に徴すると、本件採尿手続の帯有する違法の程度は、いまだ重大であるとはいえず、本件尿の鑑定書を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、本件尿の鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。 

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