捜索・差押えとは?わかりやすく解説!

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捜索・差押えとは?わかりやすく解説!

 

捜査機関における証拠の収集方法として、最も重要といってよいのが捜索・差押えです。この記事では、捜索・差押えについて、その要件は論点について、解説します。

 

1.捜索・差押えとは?

 

捜索とは、一定の場所や物、人の身体において対象物を探す処分を指します。例えば、覚せい剤所持の被疑事実のある者に対し、その者の家の中で、覚せい剤を探す場合がこれにあたります。

これに対して、差押えとは、物に対する他人の占有を排除し、これを自己の占有に移す処分を指します。例えば、上記例で覚せい剤を捜索中に、覚せい剤を発見し、これを取得する場合です。

 

このように、捜索と差押えは非常に密接な関係にありますが、厳密には異なるものです。

 

2.捜索・差押えの手続

憲法35条は、令状主義を採用しています。そのため、捜索・差押えを行うには、司法官憲(裁判所又は裁判官)が発布した令状が必要です。

 

 ・憲法35条 「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」
・刑事訴訟法218条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」

 

そして、令状の請求は、検察官、検察事務官、司法警察員が行えます。

 

 ・刑事訴訟法218条4項 「第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。」

 

3.捜索・差押えの要件

上記のように、令状の発布には、「正当な理由」の存在が必要とされます。ここで、「正当な理由」が認められるには、以下の要件を充足する必要があります。

➀特定の犯罪についての嫌疑

➁目的物が捜索場所に存在する蓋然性


➂目的物と被疑事実の関連性


④捜索差押の必要性


⑤発布された令状につき、捜索する場所及び目的物の明示

 

(1)嫌疑

捜索差押えは、特定の犯罪の捜査のために行われるものですから、当然の要件です。

(2)物が存在する蓋然性

捜索対象が捜索場所に存在しない場合、捜索をしても仕方ありません。そのため、この要件が必要とされます。

 

ところで、刑訴法102条1項は、被告人に対する捜索は、「必要があるとき」にすることができるとしています。他方、同条条2項は、第三者の捜索は、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」することができるとしています。

 

 ・刑事訴訟法102条1項 「裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
・2項 「被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。」
 

同条について、「2項は物の存在の蓋然性を規定しているのに、1項はそれがないから、1項について物の存在の蓋然性は要求していない。」と解釈することができます。しかし、被告人及び被疑者(222条1項で準用)については、物の存在の蓋然性が推定されるから、必要性のみを法で規定したと考えられています。そのため、被告人及び被疑者について捜索差押えを行う場合も、物の存在の蓋然性は必要とされています。

 

(3)目的物と被疑事実の関連性

令状主義は、無制約な捜索差押え(一般令状による捜索差押え)の禁止を目的とするものです。そのため、捜索差押えには、目的物と被疑事実の関連性が必要されます。また、そこから派生して、(5)の捜索場所と目的物の明示が必要とされます。

 

(4)必要性

 

捜索差押えは、対象者の権利を侵害するものなので、必要性の要件が課されます。

 

(5)捜索する場所及び目的物の明示

 

憲法35条は、捜索場所及び押収物の明示を要求してます。これを受け、刑事訴訟法は、令状に記載すべき事項について定めています。

 

・ 刑事訴訟法107条1項・・・差押状、記録命令付差押状又は捜索状には、被告人の氏名罪名差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者又は捜索すべき場所身体若しくは、有効期間及びその期間経過後は執行に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判長が、これに記名押印しなければならない。

・刑事訴訟法219条1項・・・前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名罪名差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所身体若しくは、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

 
 
 まず、明示は捜索場所について要求されます。そのため、例えば、Aマンションの一室を捜索する場合に、捜索場所を「Aマンション」とするのは、令状主義の趣旨に鑑みれば、不適切です。ただ、例外的に、このような記載でも明示に欠けることはないとされた裁判例があります。
 
*【判例解説】差押場所の特定(捜査):東京地決平成2年4月10日
 
 次に、令状には押収物の明示が必要とされます。ここで問題になるのが、いわゆる概括的記載です。概括的記載とは、「その他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」のように、押収物を具体的に示さないような記載を言います。最高裁は、このような記載は一定の場合に許容されるとしています。
 
*【判例解説】差押物の概括的記載(捜査):最大判昭和33年7月29日
 
 
 最後に、罪名の記載について、「~法違反」で足りるのか、「~法第~条違反」といったように、適用法条まで記載する必要があるのか問題になります。この点、上記最大判昭和33年は、令状に具体的な適用法条を示すことまでは求められていないとしています。
 
 
 なお、令状には、被疑事実の要旨は記載する必要はありません。これは、➀捜査の秘密を確保するため、そして、➁捜索差押えが、被告人及び被疑者以外の者に対して行われることがあることから、被告人らのプライバシーを保護する趣旨です。

 

4.令状の執行

 

捜索差押令状が出されると、捜査機関は、令状の執行に移ります。令状の執行は、令状の請求と異なり、司法警察職員を含む、捜査機関全般が行えます。

 

 刑事訴訟法218条1項・・・検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

 

具体的に行われた捜索差押えが適法になるのは、➀令状の事前呈示があり➁処分が令状に明示された範囲内において➂事件との関連性がある物について行われたもので、かつ、④実際に差押えの必要性が認められる場合です。

 

以下では、令状の執行における論点について解説します。

 

(1)事前呈示の原則

 

令状の執行に際しては、令状を対象者に提示しなければなりません。これは事前呈示が原則と解されていますが、裁判例では、捜索を開始した後に行うことができる場合があるとされています。

 

 ・刑事訴訟法110条・・・差押状、記録命令付差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。

【判例解説】令状の事前呈示と必要な処分(捜査):最決平成14年10月4日

 

(2)必要な処分

令状の執行に当たって、何らかの障害がある場合があります。例えば、捜索場所に入れなかったり、押収物が金庫の中に入っていたりするような場合です。このような場合、令状を執行する者は、令状の執行に必要な処分をすることができます。

 

・刑事訴訟法111条1項・・・差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。

 

(3)捜索差押えの範囲

 

捜索差押えは、令状に記載された限度で許されます。そのため、例えば、令状に記載されていない場所の捜索や、令状に記載されていない物の差押えは許されません。

 

捜索については、管理権を同一にする範囲で捜索が認められると考えられています。例えば、「Aマンション101号室」の捜索において、「Aマンション102号室」の捜索をすることはできません。他方で、「Aマンション101号室」内であれば、ロッカー内であろうと、金庫内であろうと、捜索することができます。また、判例によれば、捜索差押えの執行を開始した後に搬入された物についても、捜索差押許可状の効力が及びます。

 

【判例解説】捜索・差押えの範囲-配達物(捜査):最決平成19年2月8日

 

ここで問題になるのが、場所、身体、物の区別です。刑事訴訟法上、捜索対象は「場所」「身体」「物」は区別されています。そのため、「場所」に対する捜索差押許可状で、「身体」「物」の捜索差押えが可能になるか問題になります。

 

この点、「場所」の捜索差押許可状は、そこにある「物」についての捜索も許可していると考えられるので、この場合は「物」の捜索は可能です。そのため、「Aマンション101号室」にあるバックや金庫の内部を捜索することは可能です。

 

他方で、「身体」についての捜索までは、「場所」に対する捜索差押許可状は許可していないと考えられます。そのため、「Aマンション101号室」の捜索許可状では、その内部にいる者(被疑者を含む)の身体を捜索することは許されません。

 

それでは、「Aマンション101号室」に置かれているバックを、部屋にいるXが所持している場合、Xの「身体」を捜索することはできるでしょうか。判例には、この場合におけるXの身体の捜索を許容した事例があります。

 

【判例解説】捜索・差押えの範囲-被疑者の所持する物(捜査)-最決平成6年9月8日

 

次に、令状に記載された物であっても、事件と関連性のない物については差し押さえることができません。

 

例えば、恐喝事件で捜索差押さえ令状が出され、差し押さえるべき物として「メモ」が記載されている場合であっても、恐喝と全く関係がないことが明らかな「メモ」を差し押さえることはできません(もっとも、実際の差押え現場で、この関連性を厳密に判断することは不可能なので、多くの場合は、明らかに関係がない物を除いては、関連性ありとして差し押さえることとなります。)。

 

(4)電磁的記録の差押え

 

差押えは、被疑事実と関連性があるものについてのみ許されることから、目的物と被疑事実との関連性については、差押えの現場で確認することが求められます。

 

ここで、電磁的記録の差押えが問題になります。例えば、収賄事件で、差し押さえるべき物が「USBメモリ」であるとします。そして、実際に捜索差押えを執行してみると、現場に膨大な数のUSBメモリが存在しました。

 

この場合、上記原則を貫くのであれば、全てのUSBメモリの中身を確認し、収賄に関する物のみを差し押さえる必要があります。

 

しかし、例えば、USBメモリがパスワード付きで、かつ、一定回数パスワードを間違えると初期化されるような機能が実装されていた場合、その場で中身を確認しようとすることは、適切ではありません。

 

判例では、このようなケースについては、中身を確認せずに、包括的に差押をすることが認められています(この解釈は、電磁的記録の複写処分(218条2項)についても及んでいます(最決令和3年2月1日))。

【判例解説】包括的差押えの適法性(捜査):最決平成10年5月1日

 

 

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