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[解説] 地域による取扱いの差異と法の下の平等 : 最高裁昭和33年10月15日大法廷判決 

Last Updated on 2022年3月15日

Point 
1.地方公共団体が売春の取締について条例を制定する結果、地域ごとの取扱に差別が生じることがあっても、憲法14条1項に反して違憲ということはできない 

 1.事案の概要 

都内で料亭を経営していた被告人は、その料亭内で複数の女中に不特定の客を相手に売春行為をさせたとして、起訴されました。被告人は、売春のような一般的な取り締まりは、全国一律に法律で定められるべきであり、地域で違う規定が設けられれば、国民が居住地によって異なる取扱いを受けていることになり、憲法の平等の原則に違反している、と主張しました。 

(関連条文) 

憲法14条1項 : すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。 

憲法94条 : 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

最高裁は、地方公共団体が条例を制定できるとするのは、社会生活の中には法律によって定められているよりも、地方公共団体の自治に委ねる方が合理的な事項が存在し、または、法律・条例のどちらで定めても差し支えがないものがあるためとします。

 

「社会生活の法的規律は通常、全国にわたり劃一的な効力をもつ法律によつてなされているけれども、中には各地方の特殊性に応じその実情に即して規律するためにこれを各地方公共団体の自治に委ねる方が一層合目的的なものもあり、またときにはいずれの方法によつて規律しても差支えないものもある。これすなわち憲法九四条が、地方公共団体は「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定めている所以である。」 

 

そして、憲法94条に基づいて規定された地方自治法は、地方公共団体が法令に違反しない限りにおいて、その事務(地方の治安・風俗等の維持)に関し、条例を制定できるとし、また罰則を設けることも可能とします。 

 

「地方自治法は、憲法のこの規定に基き、普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて、その事務に関し、条例を制定することができる旨を規定し(同法一四条一項)、その事務として、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」(同法二条三項一号)や「風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の保健衛生、風俗のじゆん化に関する事項を処理すること」(同条同項七号)等を例示している。そして条例中には、法令に特別の定があるものを除く外、「条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑を科する旨の規定を設けることができる」(同法一四条五項)としているのである。」 

 

そして、憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別が生ずることは予期されるので、地域ごとの差別は憲法みずから容認しているとします。そのため、地方公共団体ごとに売春等の取扱いが異なっても違憲ということはできない、としました。 

 

「本件東京都売春等取締条例は前記憲法九四条並に地方自治法の諸条規に基いて制定されたものである。…論旨(一及び二の後段)は、売春取締に関する罰則を条例で定めては、地域によつて取扱に差別を生ずるが故に、憲法の掲げる平等の原則に反するとの趣旨を主張 するものと解される。しかし憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである。それ故、地方公共団体が売春の取締について各別に条例を制定する結果、その取扱に差別を生ずることがあつても、所論のように地域差の故をもつて違憲ということはできない。論旨は理由がない。」 

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