日本の刑事訴訟法は、起訴便宜主義を採用しています。この制度は、たとえ被疑者が罪を犯したことが確実視される場合でも、被疑者を不起訴処分とすることができる制度です。
・刑事訴訟法248条 「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」
現行の刑事訴訟法は国家訴追主義(私人に起訴を認めず国家が公訴権を独占する制度。刑事訴訟法247条)、起訴独占主義(公訴の提起やその維持の権限を検察官が独占する制度)を採用しています。つまり、被疑者を裁判にかけるか否かは、検察官の判断に依存し、検察官が不起訴の判断をした場合には、原則として、被疑者は処罰される可能性はないのです。
・刑事訴訟法247条 「公訴は、検察官がこれを行う。」
公訴を提起した場合、検察官は、被疑者が罪を犯したことを立証しなければなりません。そのために各種証拠を収集するわけですが、被疑者が罪を犯したことが明白で、かつこれを立証するための証拠もある場合でも、被疑者を不起訴処分とすることができるのです(起訴猶予)。これが起訴便宜主義です。
起訴便宜主義は、被疑者の個別の事情に応じて、被疑者の処遇を決定できるという利点があります。犯罪者は皆同じで全て処罰されるべきという考え方もあると思います。しかし現行法は、法益侵害の程度が低かったり、酌むべき事情があったりする場合には不起訴とし、他方で悪質なケースは起訴して処罰するといった、実質的な価値判断を大事にしているのです。
もっとも、ある事件に対する検察官の不起訴処分に、不服のある方がいる場合があります。そのような場合に対応する制度として、検察審査会に対する不服申立て、付審判手続があります。
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