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【判例解説】実行の着手②(総論):最高裁昭和45年7月28日第三小法廷決定 

Last Updated on 2021年8月3日

 

Point 
1.本件事情のもとでは、被告人らが被害者をダンプカーに引きずり込もうとした時点で、実行の着手が認められる。 

 

1.事案の概要  

 

被告人は、ダンプカーにAを同乗させ、ともに女性を物色して情交を結ぼうとの意図のもとで市内を俳徊走行していました。すると、一人で通行中の被害者を認め、「車に乗せてやろう。」等と声をかけながら約100m尾行しました。しかし相手にされず、これにいら立ったAが下車して、被害者に近づいて行くのを認めると、被告人は付近の空地に車をとめてこれを待ち受けました。Aが被害者を背後から抱きすくめてダンプカーの助手席前まで連行して来たとき、Aが被害者を強いて姦淫する意思を有することを被告人は察知しました。そして、必死に抵抗する被害者をAとともに運転席に引きずり込み、発進して同所より約5㎞西方にある工事現場に至り、そこで運転席内で被害者の反抗を抑圧してA、被告人の順に姦淫しました。被告人らは、前記ダンプカ―運転席に被害者を引きずり込む際の暴行により、全治約10日間の傷害を負わせました。  

(関連条文) 

・刑法43条 「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」 

・刑法177条 「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」  

・刑法181条2項 「第177条、第178条第2項若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。」 

・刑法204条 「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」  

 

【争点】 

・ダンプカーに被害者を引きずり込む時点で実行の着手があったといえるか 

 

2.判旨と解説 

 

 本件で被告人の行為に強制性交等罪が成立する点は問題ありません。それでは、強制性交等致傷罪まで成立するでしょうか。 

 

*強制性交等罪の解説はこちら 

 

刑法181条2項の強制性交等致傷罪が成立するには、傷害を負わせた時点で強制性交等罪の実行の着手が認められる必要があります。本件で被告人らに強制性交等致傷罪が成立するには、被害者をダンプカーに引きずり込んだ時点で、実行の着手が認められる必要があります。 

 

*傷害罪の解説はこちら 

*実行の着手についての解説はこちら 

 

 本件で被告人らが行ったダンプカーに引きずり込む行為は、強制性交等罪の構成要件に該当する暴行・脅迫とまでは言えないでしょう。 

 

しかし、ダンプカーに引きずり込んだ場所と強制性交等が行われた場所は近接すること、ダンプカーに引きずり込めば被害者はそこから脱出することは困難になること、被告人らが、当該時点から強制性交等をする確固たる意思を有していたことを考慮すれば、ダンプカーに引きずり込む行為は、強制性交等罪と密接に関連する行為と言えます。したがって、その時点で結果発生の客観的危険性があったと評価でき、強制性交等罪の実行の着手があったと言えます。 

 

そうすると、強制性交等罪に着手した被告人らが被害者に傷害を負わせ、そして強制性交等罪は既遂となっているので、被告人らに強制性交等致傷罪が成立します。 

 

↓判旨

「かかる事実関係のもとにおいては、被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当であ」る。 

 

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