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[解説] 職務質問における長時間の留め置きの適法性(捜査):最高裁平成6年9月16日第3小法廷決定

Last Updated on 2020年10月16日

Point 
1. 職務質問における、対象者の長時間の留め置きは、任意捜査であっても違法になりうる 

1. 事案の概要 

平成4年12月26日午前11時前ころ、被告人から、駐在所に意味のよく分からない内容の電話がありました。午前11時10分ころ、被告人のいる現場(被告人は乗用車に乗っていた)に到着した警察官は被告人に対する職務質問を開始したところ、被告人は、目をキョロキョロさせ、落ち着きのない態度で、素直に質問に応ぜず、エンジンを空ふかししたり、ハンドルを切るような動作をしたため、警察官は、被告人運転車両の窓から腕を差し入れ、エンジンキーを引き抜いて取り上げました。 

その後、職務質問を引き継いだ別の警察官らが、午後5時43分ころまでの間、順次、被告人に対し、職務質問を継続しました。そして、午後5時43分ころから、本件現場において、令状に基づく尿検査が執行されました。 

(関連条文) 

・警察官職務執行法2条1項 : 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。 

 

【争点】 

・警察官らによる被告人の長時間(約6時間)の留め置きは適法か 

 

*なお、この判例は強制採尿令状における連行の可否についても判示していますが、この点については別記事で説明します。 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

職務質問は、相手方の任意による場合に許されます。また、職務質問に際して、相手方に停止やその場に留まることを求めるのは、職務質問に付随する処分として許されると解されています。しかし、相手方の任意であっても、何らかの法益を害する以上、むやみやたらに許されるわけではありません。本決定は、職務質問に際する長時間の留め置きが、任意捜査として許される範囲を超え、違法であるとしました。 

*職務質問についての詳しい説明はこちらをご覧ください

 

最高裁は、警察官の行為をエンジンキーの取り上げと、捜索差押許可状執行までの留め置き行為に分けます。 

エンジンキーの取り上げについては、以下の事情を考慮し、警職法2条1項および道路交通法に基づき、適法な措置であったとします。 

①被告人に覚せい剤使用の嫌疑があった 

②被告人に状況認識能力等の覚せい剤中毒の症状があった 

③積雪により道路が滑りやすい状態であった 

④その状況で被告人が自動車を発信させる恐れがあった 

 

「職務質問を開始した当時、被告人には覚せい剤使用の嫌疑があったほか、幻覚の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、前記の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、警察官職務執行法二条一項に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるのみならず、道路交通法六七条三項に基づき交通の危険を防止するため採った必要な応急の措置に当たるということができる。」 

 

他方、本件留め置きに関しては、任意同行を求める説得行為として、その限度を超えるものであり、任意捜査としても許されず違法としました。 

 

「これに対し、その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が被告人による運転を阻止し、約六時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。」 

 

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