Skip to main content

【判例解説】公訴事実の同一性①(公訴の提起):最判昭和29年5月14日 

Last Updated on 2022年8月13日

  

Point 
1.10月14日に行われた窃盗の事実と、10月19日に行われた盗品有償処分あっせんの事実に公訴事実の同一性が認められるとされた事案 

 

1.事案の概要

 

被告人は「~昭和251014日頃、静岡県長岡温泉古奈ホテルに於て宿泊中のXの所有にかかる紺色背広上下一着、身分証明書及び定期券一枚在中の豚皮定期入れ一個を窃取したものである」として起訴されました。 

 

第1審第8回公判期日において検察官は、予備的に、「被告人は賍物たるの情を知りながら、1019日頃東京都内においてXから紺色背広上下一着の処分方を依頼され、同日同都豊島区池袋2丁目1034番地Y方に於て金4000円を借受け、その担保として右背広一着を質入れし、以つて賍物の牙保をなしたものである」との、訴因及び罰条を追加しました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法312条1項 「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」 

 

【争点】 

・訴因変更前後で公訴事実の同一性は認められるか 

 

2.判旨と解説 

 

 検察官は、上記のように訴因変更をしています。訴因変更は、訴因変更前後で公訴事実の同一性が認められなければすることができません。 

 

*公訴事実と訴因の解説はこちら 

*訴因変更の可否についての解説はこちら 

 

 公訴事実の同一性には、公訴事実の単一性と、狭義の意味での公訴事実の同一性があるといわれます。前者は訴因変更前後の犯罪事実が実体法上一罪の関係にあるかを問題にするものなので、本件では後者が問題になります。 

 

*公訴事実の単一性が問題になった判例はこちら 

 

 狭義の意味での公訴事実の同一性について、最高裁は、基本的事実が同一か否かを問題にします。また、補助的に、訴因変更前の犯罪と訴因変更後の犯罪が両立するか否かも考慮されます。 

 

「二つの訴因の間に、基本的事実関係の同一性が認められるかどうかは、各具体的場合に於ける個別的判断によるべきものである。」 

 

本件では、窃盗の被害にあった財物と有償処分の対象になった盗品は、同一の背広1枚で、当該背広に対する犯罪が窃盗か盗品有償処分あっせん罪かの違いしかありません。そして、犯行日時は10月14日と10月19日、犯行場所は静岡県と東京都で、ある程度は、場所的時間的近接性が認められます。そうすると、両罪は密接な関連性があるだけでなく、一方が認められれば他方は認められないという関係にあるといえます。そのため、本件では公訴事実の同一性が肯定され、第1審の訴因変更は適法とされました。 

 

「~右予備的訴因において被告人が牙保したという背広一着が、起訴状記載の訴因において被告人が窃取したというX所有の背広一着と同一物件を指すものであることは、本件審理の経過に徴し、極めて明らかである。従つて、右二訴因はともにXの窃取された同人所有の背広一着に関するものであつて、ただこれに関する被告人の所為が窃盗であるか、それとも事後における賍物牙保であるかという点に差異があるにすぎない。そして、両者は罪質上密接な関係があるばかりでなく、本件においては事柄の性質上両者間に犯罪の日時場所等について相異の生ずべきことは免れないけれども、その日時の先後及び場所の地理的関係とその双方の近接性に鑑みれば、一方の犯罪が認められるときは他方の犯罪の成立を認め得ない関係にあると認めざるを得ないから、かような場合には両訴因は基本的事実関係を同じくするものと解するを相当とすべく、従つて公訴事実の同一性の範囲内に属するものといわなければならない。」 

 

スポンサーリンク
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です