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[解説] 強制採尿の適法性(捜査):最高裁平成10月23日第一小法廷決定 

 

Point 
1.強制採尿は犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合に許容される 

2.強制採尿は、捜索差押令状に身体検査令状に関する規定(刑訴218条5項)を準用して行う 

 

1.事案の概要 

警察官らは、被告人を覚せい剤の譲渡しの被疑事実で逮捕しました。Aは、被告人の両腕に存する静脈注射痕様のもの、その言語・態度などに照らし、覚せい剤の自己使用の罪の嫌疑いたので、尿の任意提出を再三にわたり求めたが、被告人は拒絶し続けました。警察は、強制採尿もやむなしとして身体検査令状及び鑑定処分許可状の発付を得ました。鑑定の委託を受けた医師は、強制採尿に着手するに先立ち、被告人に自然排尿の機会を与えたのち、警察医務室のベッド上において、数人の警察官に身体を押えつけられている被告人から、ゴム製導尿管(カテーテル)を尿道に挿入して約100CCの尿を採取しました。被告人は、採尿の開始直前まで激しく抵抗したが、開始後はあきらめてさほど抵抗しませんでした 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法197条1項 :捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。 

・刑事訴訟法218条1項 :「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。 

同条5項 :検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。 

 

【争点】 

・強制採尿は許されるか 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

本件では、被告人に対して強制採尿が行われています。捜査の適法性が争われる際、その手法が強制処分(197条1項但書)に当たるか否かが問題となるのですが、強制採尿強制処分に該当することに異論はありません。 

 

*強制処分についてはこちら

 

 もっとも、強制採尿は身体に対する侵入行為であり、また、被疑者に精神的屈辱を与えるものなので、そもそも強制採尿自体が許容されるか否かが問題となります。 

 

 この点、最高裁は、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て、強制採尿を行うことができ、また、その実施に当たっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきとします。 

 

尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によって適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあっても軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。 

 

もっとも、適切な法律上の手続きとは何を指すのでしょうか。刑事訴訟法には、強制採尿に関する定めはないので、解釈により導き出すほかありません。 

 

最高裁は、尿の採取は捜索・差押えの性質を有すること、人権の侵害にわたる可能性がある点では身体検査と共通の性質を有するので、強制採尿には捜索差押令状身体検査令状に関する規定(刑訴218条5項)を準用して行うべきとします。 

 

そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項が右捜索差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。 

 

本件における以下の事情を踏まえると、本件強制採尿は犯罪の捜査上真にやむをえないもので、適法であるとします 

 

①覚せい剤自己使用の罪は10年以下の懲役刑に科される重大な犯罪 

被告人のその罪の嫌疑が認められた 

③被告人は、犯行を否認していたため、尿の取得の必要性がった 

④被告人は、尿の任意提出を拒み続けており、また、強制採尿に代わる手段は存在しなかった 

捜査機関は、強制採尿のため、身体検査令状及び鑑定処分許可状の発付を受けていた(従来の実務は、両令状を併用して強制採尿を行っていました)。 

⑥上記令状により、強制採尿を行い、また、執行時の強制力の行使も必要最小限のものであった 

 

 また、本件で捜査機関は、⑤で指摘した方法により強制採尿を行っていますが、これは本件強制採尿の適法性を左右するものではないとしました。 

 

これを本件についてみるのに、覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に該当する覚せい剤自己使用の罪は一〇年以下の懲役刑に処せられる相当重大な犯罪であること、被告人には覚せい剤の自己使用の嫌疑が認められたこと、被告人は犯行を徹底的に否認していたため証拠として被告人の尿を取得する必要性があつたこと、被告人は逮捕後尿の任意提出を頑強に拒み続けていたこと、捜査機関は、従来の捜査実務の例に従い、強制採尿のため、裁判官から身体検査令状及び鑑定処分許可状の発付を受けたこと、被告人は逮捕後三三時間経過してもなお尿の任意提出を拒み、他に強制採尿に代わる適当な手段は存在しなかったこと、捜査機関はやむなく右身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づき、医師に採尿を嘱託し、同医師により適切な医学上の配慮の下に合理的かつ安全な方法によって採尿が実施されたこと、右医師による採尿に対し被告人が激しく抵抗したので数人の警察官が被告人の身体を押えつけたが、右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものであつたことが認められ、本件強制採尿の過程は、令状の種類及び形式の点については問題があるけれども、それ以外の点では、法の要求する前記の要件をすべて充足していることが明らかである。令状の種類及び形式の点では、本来は前記の適切な条件を付した捜索差押令状が用いられるべきであるが、本件のように従来の実務の大勢に従い、身体検査令状と鑑定処分許可状の両者を取得している場合には、医師により適当な方法で採尿が実施されている以上、法の実質的な要請は十分充たされており、この点の不一致は技術的な形式的不備であって、本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。 

 

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