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[解説] 勾留の要件と罪証隠滅のおそれ(捜査):最高裁平成26年11月17日第一小法廷決定 

Last Updated on 2020年6月19日

 

Point 
1.罪証隠滅のおそれは具体的・現実的に行われる可能性があることを要する 

 

1.事案の概要 

被疑者は,走行中の電車車両内で,当時13歳の女子中学生に対し,右手で右太腿付近及び股間をスカートの上から触ったとして逮捕されました検察官が被疑者の勾留を請求したところ、原々審は,勾留の必要性がないとして勾留請求を却下しました。これに対し,原決定は,「被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており,被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると,被疑者が被害少女に働きかけるなどして,罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる」とし,勾留の必要性を肯定しました。 

 

(関連条文) 

刑事訴訟法60条1項 :「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。 

・1号 :「被告人が定まった住居を有しないとき。 

・2号 :「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 

・3号 「被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 

 

・刑事訴訟法87条1項 :「勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

  

【争点】 

本件勾留請求は、勾留の要件を充たすか 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

 逮捕された被疑者を受け取った検察官は、被疑者の勾留を裁判官に請求することができます。もっとも、勾留が認められるは、①罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由②勾留の理由③勾留の必要性が必要です。 

 

*勾留についての詳しい説明はこちら 

 

 本件は、被疑者に60条1項2号の「罪証隠滅のおそれ」があるかが問題になっています。 

 

 最高裁は、被疑者に罪証隠滅のおそれ認められる(②勾留の理由の要件充足)、罪証隠滅行われる現実的可能性低いので、勾留の必要性が認められない(③勾留の必要性の要件不充足として原決定は違法と判断しました。

 

被疑者は,前科前歴がない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え,本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので,被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。そうすると,勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して,勾留を認めた原決定には,刑訴法60条1項,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判をすると,上記のとおり本件について勾留請求を却下した原々審の裁判に誤りがあるとはいえないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 

 

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