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【判例解説】白紙委任状と民法109条1項の代理権授与表示➁(民法総則):最判昭和42年11月10日 

Last Updated on 2022年11月7日

 

Point 
1.白紙委任状を交付された者が、更にこれを交付し、交付を受けた者が代理行為をした場合に、民法109条1項の表見代理が成立するとされた事案。 

 

1.事案の概要 

 

Aは、Bから融資を受けるために、Xに保証人となってくれるよう依頼しました。Xは、この依頼を受け、白紙委任状等をBに交付しました。しかし、AとBとの交渉は上手くいかずAは融資を受けることはできませんでした。そこでAは、Bから上記白紙委任状等を受け取り、Yから融資を受け、さらにXを代理して、当該融資につき保証契約を締結しました。 

 

(関連条文) 

・民法99条1項 「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 

・民法109条1項 「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 

 

 

2.判旨と解説 

 

 本件では、Xが、AがBから融資を受けるための保証人になる意図で、白紙委任状をBに交付しています。しかし、AとBの交渉は決裂し、Bは白紙委任状をAに返還しました。ところがAは白紙委任状を利用し、Yから金銭を借りる際に、Xを代理して連帯保証契約を締結してしまいました。 

 

 Xは、白紙委任状をBに交付していますが、Bに対する代理権授与の表示はあります(そもそも本件では、Bに対する代理権の付与自体もある)。その後、Bは、この白紙委任状をAに渡しています。そこで、XからAに対する代理権授与の表示があるか問題になります。 

 

 白紙委任状は、転々交付されることを予定したものではないので、原則として、白紙委任状が転々交付されても、代理権授与の表示があったものとは認められません(*最判昭和39年5月23日)。そうすると、本件では、XからAに対する代理権授与の表示はなく、AがYと結んだ連帯保証契約に民法109条1項の表見代理は成立しないことになりそうです。 

 

 しかし本件でXがBに白紙委任状を交付したのは、Aが借り入れをする際の保証人になるためでした。また、本件において白紙委任状の交付は、BやBが委任する第三者に代理権を与える目的で行われており、一定の範囲内でこれが交付されることを予定していたものといえます。そうするとAがXの代理人として、Bからの借入でなくYからの借入についての保証契約を結んでも、Xに不測の不利益を与えることにはなりません。 

 

 最高裁は、XからAに対する代理権授与の表示を認めました。 

 

原判決(第一審判決引用)は、その挙示する証拠により、上告人は訴外鎌田実から、同人が訴外林容史一を通じて他から融資を得るについて保証して欲しい旨依頼されてこれを承諾したこと、そこで上告人は、右保証人となることなどについて、林容史一または同人の委任する第三者に代理権を与える目的で,自己の白紙委任状(内容が記載されていないもの。)および印鑑証明書などを林容史一に交付したこと、しかし、右林容史一を通じての融資が不成功に終つたので、鎌田実が、林容史一から右委任状などの返還を受け、被上告人との間に本件消費貸借契約を締結するにあたり、被上告人に対し右上告人の白紙委任状、印鑑証明書などを交付し、自ら上告人の代理人として本件連帯保証契約を締結したことを適法に確定しているのであり、右事実関係によれば、上告人は被上告人に対し、鎌田実に右代理権を与えた旨を表示したものと解するのが相当である。所論のうち、鎌田実は、上告人から保証を打ち切られたのにかかわらず、林容史一を欺罔して上告人の委任状などの交付を受けたものである旨述べて原判決を非難する部分は、原判決の認定しない事実に基づく主張であるから、採用することができない。原判決には何ら所論の違法はない。 

  

 

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