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[解説]所持品検査の適法性-米子銀行強盗事件①:(捜査)最高裁昭和53年6月20日第3小法廷判決

Last Updated on 2020年10月16日

Point 
1. 所持品検査は職務質問に付随する行為として許される場合がある 

1.事案の概要 

岡山県米子市内において銀行強盗事件が発生し、警察は、犯人検挙を目指し緊急配備検問を行いました。すると、ある乗用車に乗っていた者が手配人相によく似ていたので、職務質問を始めました。警察官らは、職務質問に際して、被告人らが持っていたボーリングバッグとアタッシュケースの開披を求めましたが拒否されました。 

その後30分くらい、警察官らは被告人らに対し繰り返し右バッグとケースの開披を要求し、両名はこれを拒み続けるという状況が続きました。その後、被告人らを警察署に同行したうえ、同署において、引き続いて、被告人らに質問を続けました。警察官は右質問の過程で、ボーリングバッグとアタッシュケースを開けるよう何回も求めました。これを拒み続けたので、しびれを切らした警察官は、被告人らの承諾のないまま、その場にあったボーリングバッグのチャックを開けると大量の紙幣が無造作に入っているのを確認しました。引き続いてアタッシュケースを開けようとしたが鍵の部分が開かず、ドライバーを差し込んで右部分をこじ開けると中に大量の紙幣がはいっており、被害銀行の帯封のしてある札束も確認しました。そして、被告人らは強盗の容疑で緊急逮捕されました。 

(関連条文) 

・警察官職務執行法2条1項 : 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。 

 

【争点】 

・被告人らの承諾のない所持品検査は適法か

 

2.判旨と解説 

 

職務質問については明文の規定が設けられています(警職法2条1項)。他方、所持品検査については、一定の場合(警職法2条4項、銃刀法24条の2等)を除き、これを認める規定は存在しません。この判決は、上記以外の場合において、所持品検査が可能か否かについて判示したものです。 

(職務質問についての詳しい説明はこちら

 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

最高裁は、所持品検査は職務質問に付随してこれを行うことができるとします。もっとも、職務質問は任意捜査として許されるものです。そのため、これに付随して行う所持品検査も任意捜査として行うのが原則とします。

 

「警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。」 

 

相手方が承諾した場合に所持品検査を行うことは許されます。それでは、相手方に所持品検査の承諾がない場合はどうでしょうか?
 
警察官は犯罪の予防・鎮圧もその任務としています。その任務の達成のためには、警察官にある程度の権限を認める必要があります。そこで、相手方の承諾がない場合の所持品検査は、①捜索に至らない程度で②強制にわたらない限り、許される場合があるとします。 

 

捜索や強制にわたる所持品検査とは、例えば、鍵のかかっている鞄を無理やりこじ開けた、対象者が明示に所持品検査に応じない意思を示していた、所持品検査に物理的に抵抗していた等の場合には所持品検査は許されないでしょう。

 

「・・・職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。」

②はこちら

 

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