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【判例解説】違法収集証拠排除法則③(証拠):最判平成15年2月14日 

 

Point 
1.違法収集証拠排除法則が適用され、証拠能力が否定された事案 

 

1.事案の概要 

 

被告人に対して、窃盗の被疑事実による逮捕状(以下本件逮捕状)が発付されていました。3名の警察官は被告人の動向を視察しその身柄を確保するため本件逮捕状を携行しないで被告人宅に赴きました。 

 

警察官らは被告人宅前で被告人を発見して任意同行に応ずるよう説得しました。被告人は警察官に逮捕状を見せるよう要求して任意同行に応じず突然逃走して隣家の敷地内に逃げ込みましたその後隣家の敷地を出て来たところを上記警察官らに追いかけられて更に逃走しましたが被告人宅付近の路上(以下本件現場)で上記警察官らに制圧され片手錠を掛けられて捕縛用のロープを身体に巻かれ逮捕されました。 

 

被告人は,被告人宅付近の物干し台のポールにしがみついて抵抗したものの上記警察官らにポールから引き離されるなどして警察車両まで連れて来られ同車両で警察署に連行されました。同署に到着した後間もなく警察官から本件逮捕状を呈示されました。なお、本件逮捕状には本件現場において本件逮捕状を呈示して被告人を逮捕した旨の警察官作成名義の記載がありさらに同警察官は同日付けでこれと同旨の記載のある捜査報告書を作成しました。 

 

被告人は同日に警察署内で任意の採尿に応じましたがその際被告人に対し強制が加えられることはありませんでした。被告人の尿について鑑定したところ覚せい剤成分が検出されました。 

 

数日後、裁判官から被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑事件について捜索差押許可状が発付されました。既に発付されていた被告人に対する窃盗被疑事件についての捜索差押許可状と併せて同日執行され被告人方の捜索が行われた結果被告人方からビニール袋入り覚せい剤1袋(以下「本件覚せい剤」という。)が発見されて差し押さえられました。 

 

被告人は,覚せい剤取締法違反(使用、所持)、窃盗の事実で起訴されました。公判において本件逮捕状による逮捕手続の違法性が争われました。被告人側から逮捕時に本件現場において逮捕状が呈示されなかった旨の主張がされたのに対前記3名の警察官は証人として本件逮捕状を本件現場で被告人に示すとともに被疑事実の要旨を読み聞かせた旨の証言をしました。 

 

(関連条文) 

・憲法31条 「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」   

・憲法33条 「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」  

・憲法35条1項 「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」  

・刑事訴訟法1条 「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」 

 

【争点】 

本件覚せい剤等に証拠能力はあるか

2.判旨と解説 

 

 本件では、警察官らの被告人の逮捕手続の違法性、当日に行われた採尿手続きの違法性と獲得した尿の鑑定書の証拠能力、後日行われた捜索差押えの適法性、その結果獲得した覚せい剤とその鑑定書の証拠能力が問題となりました。 

 

 まず、本件逮捕当時に令状は発布されていましたが、警察官らはこれを被告人に呈示することもなく、また、緊急執行の手続きも取られていないことから、本件逮捕は違法と評価されます。 

 

*逮捕の解説はこちら 

 

 次に、本件逮捕が違法であることを前提として、その後行われた採尿手続きの適法性、尿の鑑定書の証拠能力が問題となります。 

 

確かに、本件採尿自体を単独としてみれば、被告人の同意の下行っているので、適法と評価することができます。しかし、本件採尿は本件逮捕当日に行われており、本件逮捕と密接な関連性を有しています。そのため、本件採尿手続きも違法となります。 

 

次に、違法に収集された尿とその鑑定書の証拠能力が問題になります。一連の過程において警察官らは、本件逮捕手続の違法性をごまかそうと、逮捕状や捜査報告書に虚偽の内容を記載し、公判廷でも事実と異なる証言を行っています。 

 

これらの事情に鑑みると、本件逮捕手続における違法性は令状主義の精神を没却する重大な違法と評価でき、これと密接に関連する採尿手続きにより獲得した尿の鑑定書の証拠能力を認めることは、将来の違法捜査の抑制の観点から相当ではありません。 

 

そのため、本件では尿とその鑑定書の証拠能力が否定されました。 

 

*違法収集排除法則についての解説はこちら 

 

本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない(逮捕状の緊急執行の手続が執られていないことは,本件の経過から明らかである。)という手続的な違法があるが,それにとどまらず,警察官は,その手続的な違法を糊塗するため,前記のとおり,逮捕状へ虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言をしているのであって,本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。前記のとおり,本件採尿は,本件逮捕の当日にされたものであり,その尿は,上記のとおり重大な違法があると評価される本件逮捕と密接な関連を有する証拠であるというべきである。また,その鑑定書も,同様な評価を与えられるべきものである。 

 

*引用判例の解説はこちら 

 

 他方で、本件覚せい剤の捜索差押えは、本件逮捕の数日後に行われています。しかし、この捜索差押えは違法な採尿手続きで獲得した尿の鑑定書を疎明資料として発布された令状により行われています。そのため、本件覚せい剤の捜索差押えは証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠と評価できます。 

 

本件覚せい剤は,被告人の覚せい剤使用を被疑事実とし,被告人方を捜索すべき場所として発付された捜索差押許可状に基づいて行われた捜索により発見されて差し押さえられたものであるが,上記捜索差押許可状は上記鑑定書を疎明資料として発付されたものであるから,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠というべきである。 

  

 そうすると、本件覚せい剤の証拠能力を肯定するべきかが問題となります。 

 

 最高裁は、本件覚せい剤の差押えは裁判官による司法審査を得てされたものであること、逮捕前に適法に発付された被告人に対する窃盗事件の捜索差押許可状の執行と併せて行われたことに鑑みると、差押えと上記鑑定書の関連性は密接ではなく、重大な違法がないとして、証拠能力を肯定しました。 

 

しかし,本件覚せい剤の差押えは,司法審査を経て発付された捜索差押許可状によってされたものであること,逮捕前に適法に発付されていた被告人に対する窃盗事件についての捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなど,本件の諸事情にかんがみると,本件覚せい剤の差押えと上記鑑定書との関連性は密接なものではないというべきである。したがって,本件覚せい剤及びこれに関する鑑定書については,その収集手続に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を否定することはできない。 

  

 

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