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[解説] 猿払事件②(公務員の政治活動の自由の制限):最高裁昭和49年11月6日大法廷判決

Last Updated on 2020年3月10日

猿払事件①はこちら

Point 
1. 公務員に政治的行為の自由(憲法21条)は保障される
2. 公務員の政治的行為は、公務員が全体の奉仕者(憲法15条2項)ゆえに、合理的で必要やむをえない限度の制限が許容される。 
3. 2の判断においては、禁止の目的、目的と禁止される政治的行為の関連性、政治的行為を禁止することによる利益と禁止することにより失われる利益を比較考量することが必要 

 

そして、最高裁は以下のように検討していきます。

①国家公務員法、人事院規則により政治的行為を制限している 

②この制限により、一定の政治的行為だけでなく、意見表明の自由も制約されることになる(行為と意見表明の分離) 

③しかし、その制約対象は政治的行為(ポスターの掲示等)であって、意見表明(~党を支持している)を制限しているわけではないので、他の方法で意見表明をすることが可能 

④そのため、意見表明の制限は、一定の政治的行為を制限することによる間接的、付随的な制約にすぎない 

⑤そうすると、禁止されて失われる利益は、相対的に低いものとなる 

 

「…もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損われ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損われることを免れない。また、公務員の右のような党派的偏向は、逆に政治的党派の行政への不当な介入を容易にし、行政の中立的運営が歪められる可能性が一層増大するばかりでなく、そのような傾向が拡大すれば、本来政治的中立を保ちつつ一体となつて国民全体に奉仕すべき責務を負う行政組織の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため行政の能率的で安定した運営は阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策の忠実な遂行にも重大な支障をきたすおそれがあり、このようなおそれは行政組織の規模の大きさに比例して拡大すべく、かくては、もはや組織の内部規律のみによつてはその弊害を防止することができない事態に立ち至るのである。したがつて、このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであつて、その目的は正当なものというべきである。」

「また、右のような弊害の発生を防止するため、公員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであつて、 たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。」

「民主主義国家においては、できる限り多数の国民の参加によつて政治が行われることが国民全体にとつて重要な利であることはいうまでもないのであるから、公務員が全体の奉仕者であることの一面のみを強調するあまり、ひとしく国民の一員である公務員の政治的行為を禁止することによつて右の利益が失われることとなる消極面を軽視することがあつてはならない。しかしながら、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国公法一〇二条一項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、 他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。」  

 

最後に、国家公務員法102条1項とそれを受けた人事院規則は、以下の点で合理的で必要やむをえない制限のとどまるため、合憲であるとしました。 

①規則五項三号、六項一三号の政治的行為は、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為であって、公務員の政治的中立性の維持を損うおそれが強いと認められるものである

② ①から、規則五項三号、六項一三号の政治的行為は、政治的行為の禁止目的との間に合理的な関連性をもつものである

③その行為の禁止は、国民全体の共同利益を擁護するためのものであるから、その禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失するところがあるものとは、認められない

 

「以上の観点から本件で問題とされている規則五項三号、六項一三号の政治的行為をみると、その行為は、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為であつて、政治的偏向の強い行動類型に属するものにほかならず、政治的行為の中でも、公務員の政治的中立性の維持を損うおそれが強いと認められるものであり、政治的行為の禁止目的との間に合理的な関連性をもつものであることは明白である。また、その行為の禁止は、もとよりそれに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしたものではなく、行動のもたらす弊害の防止をねらいとしたものであつて、国民全体の共同利益を擁護するためのものであるから、その禁止により得られる利益とこれにより失われる利益との間に均衡を失するところがあるものとは、認められない。」とし、

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