【判例解説】証人尋問後に作成された供述調書と321条1項2号(証拠):最決昭和58年6月30日 

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Point 
1.証人尋問後に作成された供述調書も、321条1項2号により証拠能力が肯定されうる。 

 

(関連条文)  

・刑事訴訟法320条1項 「第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。 

・321条1項柱書 「被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 

 2号 「検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。 

 

1.判旨と解説 

 

 本件では、証人尋問が行われた後に、同人につき取調べを行い供述調書が作成され、その後再度証人尋問が行われています。その再度の証人尋問において、証人が供述調書と異なる供述をしたことから、供述調書の証拠調べ請求がされています。 

 

*伝聞証拠の解説はこちら 

*伝聞例外の解説はこちら 

 

 最高裁は、証人尋問をされた者に対し、公判において供述調書の取調請求することを目的として取調べを行うことは望ましくないとします。しかし、供述調書作成後に行われた証人尋問における供述が、前の供述調書の内容と異なる以上、刑事訴訟法321条1項2号の要件を充足するとし、これは供述調書作成前に同一事項について証言をしたことがあっても異ならないとしました。 

 

 「なお、記録によれば、昭和五六年一一月四日の原審第三回公判期日において本件詐欺の被害事実につき壺山宗慶の証人尋問が行われたのち、昭和五七年一月九日検察官が同人を右事実につき取り調べて供述調書を作成し、同年六月一日の第八回公判期日及び同年七月一三日の第九回公判期日において再び同人を右事実につき証人として尋問したところ、右検察官に対する供述調書の記載と異なる供述をしたため、検察官が刑訴法三二一条一項二号の書面として右調書の取調を請求し、原審はこれを採用して取り調べた事実が認められる。このように、すでに公判期日において証人として尋問された者に対し、捜査機関が、その作成する供述調書をのちの公判期日に提出することを予定して、同一事項につき取調を行うことは、現行刑訴法の趣旨とする公判中心主義の見地から好ましいことではなく、できるだけ避けるべきではあるが、右証人が、供述調書の作成されたのち、公判準備若しくは公判期日においてあらためて尋問を受け、供述調書の内容と相反するか実質的に異なつた供述をした以上、同人が右供述調書の作成される以前に同一事項について証言をしたことがあるからといつて、右供述調書が刑訴法三二一条一項二号にいう「前の供述」の要件を欠くことになるものではないと解するのが相当である(ただし、その作成の経過にかんがみ、同号所定のいわゆる特信情況について慎重な吟味が要請されることは、いうまでもない。)。したがつて、壺山宗慶の検察官に対する供述調書は、同号にいう「前の供述」の要件を欠くものではない。 

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