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[解説] よど号ハイジャック記事抹消事件②(受刑者の人権制限):最高裁昭和58年6月22日大法廷判決

Last Updated on 2021年1月30日

①はこちら 

Point 

1.知識・情報の伝達媒体(新聞等)の閲読の自由は、憲法19条の規定、憲法21条の派生原理より保障される 

2.未決勾留者(逮捕されて判決が確定するまで刑事施設に勾留されている者)の1の自由は、これを許すと監獄内の規律・秩序を害する相当程度の蓋然性がある場合に、必要かつ合理的な制限を受ける 

 
しかし、新聞等の閲読の自由は、これに優越する利益(逃走及び罪証隠滅の防止・監獄内の規律確保等)のために一定の合理的な制限を受けるとします。 

 

「しかしながら、このような閲読の自由は、生活のさまざまな場面にわたり、極めて広い範囲に及ぶものであつて、もとより上告人らの主張するようにその制限が絶対に許されないものとすることはできず、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受けることがあることもやむをえないものといわなければならない。そしてこのことは、閲読の対象が新聞紙である場合でも例外ではない。この見地に立つて考えると、本件におけるように、未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、前記のような監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえないものとして承認しなければならない。」

 

もっとも、未決勾留者は、拘禁関係以外の一般市民としての自由(ここでいうなら新聞紙等の閲読の自由等)は保障されるべきなので、この自由に対する制限は真に必要なものでなければならないとします。 

そこで、この制限が許されるのは、①当該閲読を許すことで、拘置所内の規律および秩序が害される放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性(一般的・抽象的な恐れでは足りない)があり、かつ②その制限の程度が右障害発生防止のために必要かつ合理的範囲にとどまる場合とします。 

 

「しかしながら、未決勾留は、前記刑事司法上の目的のために必要やむをえない措置として一定の範囲で個人の自由を拘束するものであり、他方、これにより拘禁される者は、当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。したがつて、右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。」

 

そして、法令等が合憲であることを前提に、法令等の適用が適法かについて判断します。 

もっとも、相当の蓋然性が存在するか否かの判断は、監獄内の実情に詳しい監獄所長の裁量に任せるのが妥当で、その判断が合理的であれば、当該制限は適法であるとします。すなわち、上記障害発生の相当の蓋然性があり、当該処分が必要とした監獄所長の判断が合理的な場合は、その処分は違法とならないということです。

 

「そして、具体的場合における前記法令等の適用にあたり、当該新聞紙、図書等の閲読を許すことによつて監獄内における規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が存するかどうか、及びこれを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかについては、監獄内の実情に通暁し、直接その衝にあたる監獄の長による個個の場合の具体的状況のもとにおける裁量的判断にまつべき点が少なくないから、障害発生の相当の蓋然性があるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の右措置は適法として是認すべきものと解するのが相当である。」

 

監獄長の判断が合理的かにつき、①公安事件関係の被拘禁者による秩序を乱す激しい行為が頻繁に行われていた②本件抹消された記事が赤軍派学生による航空機ハイジャックであった、ことを認定し、監獄長の判断は合理的な根拠があり、具体的な措置についても同所長の判断は適法であったとしました。 

 

「これを本件についてみると、前記事実関係、殊に本件新聞記事抹消処分当時までの間においていわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる東京拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が相当頻繁に行われていた状況に加えて、本件抹消処分に係る各新聞記事がいずれもいわゆる赤軍派学生によつて敢行された航空機乗つ取り事件に関するものであること等の事情に照らすと、東京拘置所長において、公安事件関係の被告人として拘禁されていた上告人らに対し本件各新聞記事の閲読を許した場合には、拘置所内の静穏が攪乱され、所内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるものとしたことには合理的な根拠があり、また、右の障害発生を防止するために必要であるとして右乗つ取り事件に関する各新聞記事の全部を原認定の期間抹消する措置をとつたことについても、当時の状況のもとにおいては、必要とされる制限の内容及び程度についての同所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用の違法があつたとすることはできないものというべきである。」 

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