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【判例解説】不動産侵奪罪における侵奪の意義(各論):最決平成12年12月15日①   

 

Point 
  1. 侵奪とは、不法領得の意思をもって,不動産に対する他人の占有を排除し,これを自己又は第三者の占有に移すことをいう 
  2. 侵奪があったか否かは、具体的事案に応じて,不動産の種類,占有侵害の方法,態様,占有期間の長短,原状回復の難易,占有排除及び占有設定の意思の強弱,相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し,社会通念に従って決定すべき 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、不動産侵奪罪その他の犯罪事実で起訴されました。不動侵奪罪の公訴事実は「被告人は~中古家庭電器製品等の売場として利用する目的で~東京都が所有する~約110.75平方メートルの空き地を侵奪することを企て,平成812月中旬ころ,同所において,東京都に無断で右空き地中央東寄り部分に木造ビニールシート葺平屋建簡易建物(建築面積約37平方メートル)を建築し、更に引き続いて,そのころ,同所において,右簡易建物の西端に接続して右同様の簡易建物(建築面積約27・3平方メートル)を増築し,もって右都有地~を侵奪した。」というものでした。 

 

 ようは、東京都が所有する空き地に、勝手に建物を建てたという事です。 

 

第1審は被告人を有罪としたところ、控訴審は、被告人を無罪としました。その理由として、「本件で起訴の対象となっているのは平成8年12月中旬ころの時点における被告人らの行為であるが,右時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠はなく,右時点の同建物は,前記検証時のそれより更に規模が小さく,構造が強度でなかった可能性がある。~本件簡易建物は,本格建築とはほど遠く,解体も容易なものであったから,占有侵害の態様は必ずしも高度のものとはいえない。東京都の本件土地の管理状況は比較的緩やかなものであり,その職員らは,平成8年10月ころ被告人らが本件土地を不法占有するようになって以降,時折警告を与えていたが,その内容は,本件簡易建物建築の前後を通じて,本件土地を明け渡すようにとの趣旨にとどまり,不動産侵奪をいうものではなかった。また,本件簡易建物は居住目的のものでなかったから,占有排除及び占有設定の意思,相手方に与えた損害,原状回復の困難性も,さほど大きいものとはいえない。そうすると,前記検証時の本件簡易建物の性状を前提にしても,同建物の建築をもって不動産侵奪罪にいう侵奪行為があったとするには,重大な疑問が残る。本件公訴事実のいう平成8年12月当時の本件簡易建物の形状は,右検証時のそれよりも更に規模が小さく,あるいは構造が強固でないものであった可能性があるから,不動産侵奪罪の成立を認めるには合理的疑いが残り,犯罪の証明がない。」としています(なお、本件簡易建物は、東京都が依頼した解体業者によって、6名の人員で大き目のハンマー等を用いて約1時間で解体撤去されました)。 

 

(関連条文) 

・刑法235条の2 「他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。」 

 

【争点】 

・被告人の行為は、不動産の「侵奪」にあたるか 

 


2.判旨と解説 

 

*不動産侵奪罪の解説はこちら 

 

 被告人は、東京都の土地に勝手に建物を建てています。そこで、この行為に不動産侵奪罪が成立するか、具体的には、簡易建物を建てた行為が「侵奪」にあたるかが問題になります。 

 

 「侵奪」とは、「不法領得の意思をもって,不動産に対する他人の占有を排除し,これを自己又は第三者の占有に移すこと」をいいます。 

 

注意が必要なのは、他人の土地に建物を建てたり、不法占拠しただけで、直ちに「侵奪」にあたるとはされていません。「侵奪」にあたるか否かは、「具体的事案に応じて,不動産の種類,占有侵害の方法,態様,占有期間の長短,原状回復の難易,占有排除及び占有設定の意思の強弱,相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し,社会通念に従って」判断されます。 

 

*窃盗罪についての解説はこちら 

*不法領得の意思についての判例はこちら 

 

「刑法235条の2の不動産侵奪罪にいう「侵奪」とは,不法領得の意思をもって,不動産に対する他人の占有を排除し,これを自己又は第三者の占有に移すことをいうものである。そして,当該行為が侵奪行為に当たるかどうかは,具体的事案に応じて,不動産の種類,占有侵害の方法,態様,占有期間の長短,原状回復の難易,占有排除及び占有設定の意思の強弱,相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し,社会通念に従って決定すべきものであることは,原判決の摘示するとおりである。」 

 

 本件における公訴事実に記載されているのは、平成8年12月中旬ごろの侵奪行為です。しかし、本件簡易建物について検証が行われたのは平成9年8月1日です。そのため、平成8年12月中旬ごろにおける本件簡易建物についての性状については、確固たる証拠がありません。不動産侵奪罪の成否には、本件簡易建物の規模や原状回復の容易性が考慮要素となります。しかし、検証時の本件簡易建物は、被告人以外の誰かによって勝手に増強されたものかもしれません。控訴審は、この点を指摘して、犯罪の証明がないとしました。 

 

しかし最高裁は、平成8年12月中旬ごろではなく、平成9年8月1日の占有状況等を問題にします。平成9年8月1日における本件簡易建物は容易に倒壊しない骨組みを有し、また、被告人は退去要求を無視しており、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固で、東京都に与えた損害も小さくないとします。そのため、遅くとも平成9年8月1日までには、被告人によって本件土地は侵奪されていたとします。 

 

「本件で起訴の対象となっている平成8年12月中旬ころの時点あるいはそれに引き続いて西側に増築された時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠がないことも,原判決の指摘するとおりである。しかし,捜査段階において検証が行われた平成9年8月1日当時の本件土地の状況について見ると,本件簡易建物は,約110・75平方メートルの本件土地の中心部に,建築面積約64・3平方メートルを占めて構築されたものであって,原判決の認定した前記構造等からすると,容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており,そのため,本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され,その回復も決して容易なものではなかったということができる。加えて,被告人らは,本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して,本件簡易建物を構築し,相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから,占有侵害の態様は高度で,占有排除及び占有設定の意思も強固であり,相手方に与えた損害も小さくなかったと認められる。そして,被告人らは,本件土地につき何ら権原がないのに,右行為を行ったのであるから,本件土地は,遅くとも,右検証時までには,被告人らによって侵奪されていたものというべきである。」 

 

以下は、訴訟法上の問題です。 

 

被告人は平成8年12月中旬ごろの侵奪行為で起訴され、控訴審は平成8年12月中旬ごろにおける不動産侵奪罪の成立には合理的な疑いが残るとして無罪判決を出しています。しかし、平成8年12月中旬ごろの侵奪行為と、遅くとも平成9年8月1日までの間に行われた侵奪行為は、公訴事実の同一性があります。 

 

そして最高裁は、少なくとも、後者の時点で不動産侵奪罪の成立の可能性がある以上、場合によっては訴因変更の手続きをするなどして、平成9年8月1日までの不動産侵奪罪の成立について審理をする義務が控訴審にあったとします。そのため、控訴審の判断には判決に影響を及ぼすべき法令違反があり破棄しなければ著しく正義に反するとして、破棄差戻しとしました。 

 

*訴因変更の可否についての解説はこちら 

*不動産侵奪罪の成立を認めた他の判例はこちら 

 

「前記一の事実については,殊にその特定する時期における不動産侵奪罪の成立を認めることができないとしても,前記一の事実と,その後遅くとも前記検証時である平成九年八月一日までの間に本件簡易建物によって本件土地を侵奪したという事実とは,基本的事実関係を同じくし,公訴事実の同一性があるというべきである。そうだとすると,原審裁判所は,右検証時までの右罪の成立の可能性について,必要であれば訴因変更の手続を経るなどして,更に審理を遂げる義務があった。ところが,原審裁判所は,刑法二三五条の二の侵奪の成否についての判断を誤り,右検証時における本件土地の占有状態によってもなお侵奪があったとはいえないと解した結果,右時点までの同罪の成立の可能性について何ら審理をすることなく,直ちに犯罪の証明がないとして被告人を無罪としたものであって,原審には判決に影響を及ぼすべき法解釈の誤り及び審理不尽の違法があるといわざるを得ず,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」 

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