現行の刑事訴訟法は、国家訴追主義、起訴独占主義、起訴便宜主義を採用しています。その結果、検察官以外の者は公訴を提起することはできず、また、公訴の提起は検察官の裁量によって行われます。
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この制度を採用した場合、証拠上、罪を犯したことがほぼ確実なのに、被疑者が起訴されないといった事が多々あります。それ自体常に不当と言えるわけではないのですが、当該不起訴処分に対し、不服がある方が存在する場合があります。検察官の不起訴処分に対し、不服申立てを認めた1つの制度が、付審判手続です。
付審判手続は全ての事件についてできるというわけではなく、刑法193条から196条(公務員職権乱用罪等)等の罪について可能です。窃盗罪や暴行罪などは付審判手続の対象にならないので、同制度の適用範囲は広いものではありません。
付審判手続は、該当する事件について告訴又は告発した者のみ可能です
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付審判手続の申立ては検察官に対して行います(262条2項)。これは、被疑者の処分について、検察官に再考を促すためです。申し立てを受けた検察官はこの請求に理由があると考えた場合には、起訴することになります(264条)。他方で、請求に理由がないと考えた場合には、請求書、検察官が作成した意見書等を裁判所に送付します(刑事訴訟規則171条)。
・刑事訴訟法262条1項 「前項の請求は、第260条の通知を受けた日から7日以内に、請求書を公訴を提起しない処分をした検察官に差し出してこれをしなければならない。」
・刑事訴訟法264条 「検察官は、第262条第1項の請求を理由があるものと認めるときは、公訴を提起しなければならない。」
・刑事訴訟規則171条 「検察官は、法第262条の請求を理由がないものと認めるときは、請求書を受け取った日から7日以内に意見書を添えて書類及び証拠物とともにこれを同条に規定する裁判所に送付しなければならない。意見書には、公訴を提起しない理由を記載しなければならない。」
請求書が送付されると、裁判所は付審判請求に理由があるか審理します。この審理は合議体で行われます(265条1項)。最終的に裁判所は、請求に理由があると考える場合には、事件を審判に付する旨の決定をします(266条)。これは公訴の提起とみなされます(267条)。この場合、検察官に訴訟手続きを担当させることは相当ではないので、弁護士が検察官の役割を果たし、訴訟手続きを進行させることになります(268条)。
・刑事訴訟法265条 「第二百六十二条第一項の請求についての審理及び裁判は、合議体でこれをしなければならない。」
・刑事訴訟法266条 「裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を受けたときは、左の区別に従い、決定をしなければならない。
1号 請求が法令上の方式に違反し、若しくは請求権の消滅後にされたものであるとき、又は請求が理由のないときは、請求を棄却する。
2号 請求が理由のあるときは、事件を管轄地方裁判所の審判に付する。」
・刑事訴訟法267条 「前条第二号の決定があつたときは、その事件について公訴の提起があつたものとみなす。」
・刑事訴訟法268条1項 「裁判所は、第二百六十六条第二号の規定により事件がその裁判所の審判に付されたときは、その事件について公訴の維持にあたる者を弁護士の中から指定しなければならない。」
ところで、付審判請求が認容されたケースは、昭和24年から平成28年までの間で21件しかありません。また、付審判決定がされた場合でも、うち12件は無罪となっています。更に、平成28年には付審判請求が404件あったのですが、付審判決定は0件です。このことから、付審判手続の対象となる犯罪について検察官が不起訴処分と判断したケースの大半は、裁判所から見ても適当なものであったと評価されていると言えるでしょう*。