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【判例解説】逮捕の違法と勾留の違法(捜査):東京高判昭和54年8月14日 

 

Point 
1.本件では、被告人の駐在所から警察署への同行は、実質的逮捕に当たる。 

2.逮捕に重大な違法がないため、その後に行われた勾留は違法とならない。 

 

1.事案の概要 

 

昭和53年7月14日午後3時24分ころ、長野県飯山市内において、被害者所有の買物袋が窃取される事件が発生しました。すぐに被害者から飯山警察署(以下、飯山署という)に届出がなされ、その際目撃者が確認した犯人の人相・服装、犯人が乗って逃走した自動車の色・ナンバー等が申告されたので、これに基づき直ちに緊急手配がなされました。その後間もなくして、右自動車は窃盗の約6時間前に盗まれたものであることが判明しました。  

 

同日午後5時50分ころ、手配車両を見かけた旨の通報があり、同日午後6時20分ころ、国道で車両検問に従事していたA、Bの両巡査は、手配車両が進行して来るのを認め、その色及びナンバーを確認したうえ停止の合図をしました。すると、手配車両は一時減速しましたが、両巡査の前付近から急に加速し走り去りました。その際、両巡査は、手配車両の運転者がその人相・服装(手配と一部相違があるが)等から手配中の犯人であることを確認し、他に同乗者がいないことをも確認しました。そこで、B巡査は直ちにミニパトカーで手配車両を追跡し、約4キロメートル先でこれに追いつき、更に約2キロメートル進んだところで、手配車両は道路に面した近所の中学校校庭に進入し停車しました。下車した犯人は右車両を放置したまま同校西側の山林内に逃げ込んだので、B巡査は車から降りてこれを追跡しましたが、その姿を見失ってしまいました。同日午後6時30分ころでした。 

 

その後、同中学校に犯人捜索本部が設けられ、消防団員の応援をも得て、山狩り・捜索が行われました。同日午後8時5分ころ、国鉄の駅で張込み中の巡査部長Cと巡査Dの両名は、同駅南側空地付近で被告人を発見し、その人相・服装等が手配人物に酷似しているうえ、そのズボンが濡れていて足の方が泥で汚れていることから、山林中を逃げ廻った犯人に間違いないと認め、被告人をすぐそばの同駅待合室に任意同行し職務質問を行いました。 

 

被告人は犯行については知らない旨答え、住所・氏名を尋ねても答えず、所持していた期限切れで失効した運転免許証、出所証明書によって始めてその本籍・氏名・生年月日や、最近、刑務所を出所したばかりであることなどが判明しました。その間にAB両巡査も駈けつけ、先ほど逃走した犯人は被告人に相違ないことを確認しました。そこで事情聴取にあたっていたC部長は、被告人の容疑が濃いと判断し、被告人が「同所では寒い」と言ったので、午後8時30分ころ最寄り(同所より徒歩約20分)の駐在所に任意同行しました。同所においてもC部長らが事情聴取を行いましたが、被告人の答えは変わりませんでした。 

 

午後10時半ころ、応援に来ていたE警部補は、前記諸事情からして被告人の容疑は濃厚であるが、緊急逮捕をするには無理がありなお継続して取調べをする必要があると判断しました。しかし、右駐在所の駐在員家族の就寝時刻でもあり、被告人の供述の真否確認には駐在所では不便であって被告人にとっても不利益であると判断し、そこで、飯山署長及び同署刑事課長らと協議したうえ、被告人が同意するなら飯山署に同行することしました。被告人の意向を確かめると、被告人は、同行を承諾する意思はなかったが、半ば自棄的になり勝手にしろといった調子で「どこにでも行ってよい」旨を述べました。 

 

Eは被告人が同行を承諾したものと考え、同日午後11時ころ、一般の乗用車と変らないいわゆる覆面パトカーの後部座席中央に被告人を乗せました。その両側に2名の警察官が被告人を挾むようにして乗り、前部には運転者のほか助手席にも警察官が乗り、合計5名の警察官が同乗して同所を出発し、同日午後11時50分ころ飯山署に到着しました。被告人は右パトカーに自分から乗り込み、また途中では家族の話をしたり警察官から夜食用のパンをもらって食べたりし、パトカーから降りたいなどとは言いませんでしたが、それはこれまでの経過からみて、被告人としては同行を拒否しても聞いてもらえないと諦めていたものと認定されています。 

 

飯山署において取調べが行われ、結局被告人否認のまま逮捕状が発付され、午前2時18分その執行がなされ、翌16日午後1時検察庁送致の手続がとられました。その後間もなく勾留請求がなされ、勾留状が発付されて同日午後4時18分その執行がされました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法199条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。」 

・203条1項 「司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取ったときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。」 

・205条1項 「検察官は、第203条の規定により送致された被疑者を受け取ったときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。」 

・205条2項 「前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることができない。」  

・210条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。」 

 

【争点】 

・覆面パトカーによる被告人の同行は実質的逮捕に当たるか 

・その後行われた勾留は適法か 

 

2.判旨と解説 

 

 逮捕は、あらかじめ裁判官に令状請求し、その令状に基づいて行うのが原則です。そのため、令状無くして被疑者を逮捕することは基本的に許されないことになります。 

 

・逮捕の解説はこちら 

・強制処分法定主義の解説はこちら 

 

 本件では、警察官らによる被疑者の同行が、実質的に見れば無令状の逮捕に該当するかが問題になりました。東京高裁は、駐在所から飯山署に向かうために行った、覆面パトカーによる同行は、実質的逮捕に当たるとしました。 

 

「以上の経過によって判断すると、被告人を前記駅付近から同駅待合室へ、同所から更に駐在所へ同行した一連の行為は、その経過・態様に照らし警察官職務執行法2条2項の任意同行に該当し何ら違法の点は認められないが、少なくとも同駐在所から飯山署に向かうべく被告人をいわゆる覆面パトカーに乗せてからの同行は、被告人が始めに「どこにでも行つてよい」旨述べたとはいえ、その場所・方法・態様・時刻・同行後の状況等からして、逮捕と同一視できる程度の強制力を加えられていたもので、実質的には逮捕行為にあたる違法なものといわざるをえない。」 

 

本件では、違法な逮捕後に勾留がされています。先行する逮捕が違法な場合、後に行われた勾留も違法になると考える余地があります。 

 

*勾留の解説はこちら 

 

しかし東京高裁は逮捕の違法=勾留の違法とはせず、逮捕に重大な違法がある場合には、その後の勾留は違法となるとしました。そして以下の事情を踏まえると、本件逮捕には重大な違法はないとしました。 

 

実質逮捕時に緊急逮捕の要件を充たしていた 

②①から3時間後には通常逮捕の手続きが取られている 

③実質逮捕の時から勾留まで、法定の時間制限を超えていない 

 

「しかし、当時警察官は緊急逮捕はできないと判断していたのではあるが、前記の諸事情、特に、買物袋窃取の犯人が乗って逃走した自動車をその2、3時間後に被告人が運転しており、しかも警察官の停止合図を無視して逃走したこと、約1週間前に遠隔地の刑務所を出所したばかりで、しかも運転免許をもたない被告人が数時間前に盗まれた自動車を運転していたことなどからすると、右実質的逮捕の時点において緊急逮捕の理由と必要性はあつたと認めるのが相当であり、他方、右実質的逮捕の約3時間後には逮捕令状による通常逮捕の手続がとられていること、右実質的逮捕の時から48時間以内に検察官への送致手続がとられており、勾留請求の時期についても違法の点は認められないことを合わせ考えると、右実質的逮捕の違法性の程度はその後になされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではないと考える。また他に右勾留を違法無効とするような事情は記録上何ら認められない。」 

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