強盗罪(刑法236条)は、暴行・脅迫を用いて窃盗を行った場合、又は、暴行・脅迫を用いて財産上の利益を得た場合に成立します。前者を1項強盗、後者を2項強盗といいます。
相手方の意思に反して財物を奪取するのは窃盗罪(刑法235条)と同じです。窃盗罪と強盗罪の大きな違いは、財物奪取の手段として暴行・脅迫が用いられたか否かです。
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・刑法236条1項 「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」
・同条2項 「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」
・刑法243条 「第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。」
・刑法237条 「強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。」
1.1項強盗とは
1項強盗は、①暴行・脅迫を用いて②他人の財物を③強取した場合に成立します。
強盗罪の暴行・脅迫は、「その暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によって決せられるのであって、具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であったかどうかと云うことによって決せられるものではない」とされています(最高裁昭和24年2月8日刑集3巻2号75頁)。
例① Xは、ナイフを使ってYを脅迫し、鞄を奪った
ナイフや銃を使って強盗を行った場合、強盗罪の言う暴行・脅迫に該当すると判断される場合が多いでしょう。また、①犯行時刻が夜②犯人が屈強な男性③被害者が女性といった事情がある場合には、同罪の暴行・脅迫にあたると判断される可能性が高いでしょう。
他人の財物とは、他人が所有権を有する財物を言います。自己の所有物を強取した場合(賃貸借契約の目的物を、賃貸人が賃借人から強取した場合など)であっても、刑法242条により強盗罪が成立することがあります。
・刑法242条 「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」
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強取とは、暴行・脅迫を用いて財物を奪取することを指します。このことから、暴行・脅迫と財物奪取に因果関係が要求されます。
例② Xは、パソコンを奪取した後、所有者のYに暴行を加えた
このように、財物を奪取した後に暴行・脅迫を行った場合には、財物奪取との間に因果関係はないため、強盗罪は成立しないことになります(事後強盗罪が成立することはあります。なお、財物奪取と暴行・脅迫が接着して行われた場合には、強盗罪が成立する余地あり(最判昭和24年2月15日刑集3巻2号164頁))。
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例③ Xは、Yに暴行・脅迫を加えた後、Yが身につけている時計が欲しくなり、これを奪った
暴行・脅迫をした後に領得意思が生じた場合、これは暴行・脅迫を手段として財物を奪取したとはいえないため(手段としたのではなく、その状況を利用したに過ぎない)、強盗罪は成立しないとするのが通説です。もっとも、この場合窃盗罪が成立する可能性があります。
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例④ Xは、相手方の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫をしたが、Yは肝の据わった者だったので、全く反抗が抑圧されなかったが、哀れみの気持ちから鞄を渡した。
暴行・脅迫は客観的に評価するのですから、たとえ被害者の犯行が抑圧されなかったとしても、Xの行為は強盗罪の言う暴行・脅迫にあたります。
もっとも判例によると、被害者の犯行が抑圧されなかったとしても、客観的に強盗罪の暴行・脅迫を行い財物を奪取した以上、強盗既遂の成立は免れないとしています(最判昭和23年11月18日刑集2巻12号1614頁)。つまり判例によると、強盗罪が成立するには、暴行・脅迫→財物奪取の因果関係があれば足り、暴行・脅迫→反抗抑圧→財物奪取の関係までは要しないという事です。
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もっとも学説では、強盗罪の成立には暴行・脅迫→犯行抑圧→財物奪取の関係を要求する見解が多数説となっています。この見解によると、上記事例のXの罪責は強盗未遂と恐喝既遂(刑法249条1項)となります。
・刑法249条1項 「人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。」
2.2項強盗とは
2項強盗は、①暴行・脅迫により②財産上不法の利益を得る、又は他人に得させることで成立します。
財産上不法の利益とは、1項強盗の客体とされている財物以外の財産的利益を指します。債権取得や債務免除が典型例です。
強盗罪は、財物や財産上の利益が移転したことを本質とする犯罪ですので、客体となるのは移転性のあるものに限られると解されています。したがって、情報やサービスについては2項強盗罪の客体にならないことになります(被害者が情報を失うことはないし、サービスについてはこれを失うという事は観念できない)。もっともこの場合、情報やサービスに対応する対価の支払いを免れたとして2項強盗の成立を肯定する見解もあります。
財産上の利益は任意に処分できるものであることを要するとされています。この立場に立った場合、例えば、相続による財産の承継を目的として子が親を殺しても、2項強盗(強盗殺人罪(刑法240条後段))は成立しません。
また、2項強盗罪の成立には、被害者の処分行為は不要とされています(最判昭和32年9月13日刑集11巻9号2263頁)。
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*1項強盗と2項強盗の成否が問題となった判例はこちら