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【判例解説】2項強盗と処分行為(各論):最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決 

Last Updated on 2021年1月30日

 

Point 
1.被害者の処分行為がなくとも、2項強盗罪は成立する。 

 

1.事案の概要 

 

被告人は、Aから11万円を自己の営業費や家族の生計費等に資するため借り受けました。しかし、被告人がほとんど同女返済をしなかったため、被告人に対して不信をいだくようになった同女から再三その返済方を督促されました。被告人は返済の手段がなかったので、前記貸借につき証書もなくその内容は分明を欠き、また、同女が死亡すれば被告人以外にその詳細を知る者のないことをいいことに、同女を殺害して債務の履行を免れようと企図しました。そして、同女を呼び出し、凶器で同女の頭部等を殴打し、頭部、顔面等に多数の裂創挫創等を負わせましたが、同女が即死したものと軽信しそのままその場を立ち去つたので、殺害の目的を遂げることはできませんでした  

 

(関連条文)  

刑法236条1項 「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。 

・同条2項 「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」 

・刑法240条 「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。  

刑法243条 「235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。 

 

【争点】   

・2項強盗の成立には、被害者の処分行為を要するか 

 

2.判旨と解説 

 

 明文にはないですが、かつての判例は、2項強盗罪の成立には被害者の処分行為を要するとしていました。 

 

 強盗罪の暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧する程度のものである必要があります。そのような性質に鑑みると、強盗罪の被害に遭った者は、処分行為をする余裕がないのが通常です。処分行為がないとして2項強盗罪の成立を否定してしまうと、処罰範囲が狭くなってしまいます。また、1項強盗で処分行為が不要と解されていることとの平仄を合わせる必要もあります。 

 

 本件で最高裁は、大審院の判例を明示に変更し、2項強盗の成立には処分行為を要しないとして、被告人に強盗殺人未遂罪の成立を認めました。 

 

大審院明治四三年(れ)第八五〇号同年六月一七日判決は、刑法二三六条二項の罪の成立するがためには犯人が他人に財産上作為又は不作為の処分を強制することを要し、債務の履行を免れる目的をもつて単に債権者を殺害するがごときは同罪をもつて論ずることを得ないものとしている。しかし、右二三六条二項の罪は一項の罪と同じく処罰すべきものと規定され、一項の罪とは不法利得と財物強取とを異にする外、その構成要素に何らの差異がなく、一項の罪におけると同じく相手方の反抗を抑圧すべき暴行、脅迫の手段を用いて財産上不法利得するをもつて足り、必ずしも相手方の意思による処分行為を強制することを要するものではない。犯人が債務の支払を免れる目的をもつて債権者に対しその反抗を抑圧すべき暴行、脅迫を加え、債権者をして支払の請求をしない旨を表示せしめて支払を免れた場合であると、右の手段により債権者をして事実上支払の請求をすることができない状態に陥らしめて支払を免れた場合であるとを問わず、ひとしく右二三六条二項の不法利得罪を構成するものと解すべきである。この意味において前示明治四三年判例は変更されるべきである。~被告人の右所為は、前示の法理に照し刑法二四〇条後段、二四三条、二三六条二項に該当し、強盗殺人未遂の罪責を負うべきこと勿論であるといわなければならない。されば、原判決は結局正当であつて、所論は理由がない。  

 

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