Skip to main content

【判例解説】死者の占有(各論):最高裁昭和41年4月8日第二小法廷判決 

Last Updated on 2021年1月28日

 

Point 
1.死者から財物を奪取した場合に窃盗罪が成立することがある 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、道中で見かけた女性を姦淫しようと、自分運転する自動車に乗せた後、草むらで降車させ姦淫しました。その後、犯行を恐れた被告人は、同女を殺害し死体を穴に埋めました。その、同女がつけていた腕時計を奪いました。 

 

(関連条文)  

・刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」 

・刑法253条 「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。 

 

【争点】 

・被告人に窃盗罪が成立するか。

 

2.判旨と解説 

 

 本件で被告人は、被害者を殺害した後に財物奪取の意思が生じ、腕時計を奪取しています。そのため、死者の占有云々を問題とするまでもなく、暴行・脅迫を手段として財物を奪取したと言えないため、強盗罪は成立しませんこれは死者の占有が認められるかの問題ではなく強盗罪の解釈の問題です。なお、当初から財物を奪取するつもりで犯行に及んでいた場合には、強盗罪ないし強盗殺人罪が成立します。 

 

*窃盗罪の解説はこちら 

*強盗罪の解説はこちら 

 

 それでは、窃盗罪についてはどうでしょう。ここでは、死者に占有が認められるかが問題となります。占有が認められない場合、窃盗罪は成立せず、占有離脱物横領罪が成立しうるにとどまります。 

 

 まず、XがYを殺害した後、無関係の第三者Zが死体から財物を奪った場合には、Zの行為には占有離脱物横領罪が成立するとされています(大判大正13年3月28日新聞2247号22頁)。このように、死者の占有は、事件と無関係な第三者との関係では認められないと解されています。 

 

 それでは本件のように、被害者を殺害した者自ら死体から財物を取った場合についてはどうでしょう。学説では、①窃盗罪が成立する②占有離脱物横領罪が成立する、とする見解に分かれます。 

 

 ①は、殺害犯人との関係では、死亡と窃取の間に時間的・場所的接着性がある場合には、被害者の占有(生前の占有)は保護に値するため、死亡直後の犯人による窃取には窃盗罪が成立するとします(このように、窃盗罪の成立を認める説の多数は、死者の占有そのものを肯定するのではなく、生前の占有を問題とします。) 

 

②は、死者には占有の意思も事実も認められない、時間的・場所的接着性の概念が不明確であるとして、窃盗罪は成立しないとします。 

 

 本件で最高裁は、被害者が生前有していた占有は死亡直後において保護に値するとして、被害者の殺害に始まる一連の行為を全体的に考察して、窃盗罪が成立するとしました。 

 

披告人は、当初から財物を領得する意思は有していなかつたが、野外において、人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後、その現場において、被害者が身につけていた時計を奪取したのであつて、このような場合には、被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなうものというべきである。そうすると、被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから、右奪取行為は、占有離脱物横領ではなく、窃盗罪を構成するものと解するのが相当である 

スポンサーリンク
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です