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【判例解説】検面調書の証拠能力(証拠):最高裁平成7年6月20日第三小法廷判決

Last Updated on 2021年1月4日

 

Point 
1.伝聞例外に当たる場合でも、証拠能力が欠けることがあり得る 

 

1.事案の概要 

 

 被告人らは、売春防止法違反で逮捕されました。検察官は、被告人らのもとで働かされていたタイ人女性らを取調べ、その供述を録取した調書を作成しました。もっとも、同女らはいずれもその後タイに強制送還されてしまいました。第一審は、この調書は刑事訴訟法321条1項2号に該当するとして、証拠能力を肯定しました。 

 

(関連条文) 

 

・憲法37条2項 「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。 

 

・刑事訴訟法320条1項 「321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。 

 

・刑事訴訟法321条1項柱書 「被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 

 

・同項2号 「検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異った供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。 

 

【争点】  

・本件調書に証拠能力が認められるか 

 

2.判旨と解説 

 

 本件でタイ人女性らの供述を録取した検面調書は、伝聞証拠に該当します。そのため、原則としてこれを証拠とすることはできず、例外的に伝聞例外に該当する場合に証拠として使用することが許されます(刑訴320条1項)。 

 

*伝聞証拠の解説はこちら 

*伝聞例外の解説はこちら 

 

 本件検面調書における供述者らは、公判が開かれた時点で既にタイに強制送還されています。そのため、「国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき」(刑訴321条1項2号)に該当することは明らかです。 

 

 しかし、伝聞例外は被告人に保障されている証人尋問権(憲法37条2項)の行使なくして伝聞証拠に証拠能力を認めるものなので、同号に該当する場合に必ず証拠能力が認められると解するのは妥当ではありません。そのため、形式的には同号に該当する場合でも、事情のいかんによっては、その調書に証拠能力を否定すべきです。 

 

「同法三二一条一項二号前段は、検察官面前調書について、その供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日に供述することができないときは、これを証拠とすることができると規定し、右規定に該当すれば、証拠能力を付与すべきものとしている。しかし、右規定が同法三二〇条の伝聞証拠禁止の例外を定めたものであり、憲法三七条二項が被告人に証人審問権を保障している趣旨にもかんがみると、検察官面前調書が作成され証拠請求されるに至った事情や、供述者が国外にいることになった事由のいかんによっては、その検察官面前調書を常に右規定により証拠能力があるものとして事実認定の証拠とすることができるとすることには疑問の余地がある。」 

 

そこで最高裁は、証拠請求することが手続的正義の観点から公正を欠くと認められる場合には、当該調書の証拠能力が否定されるとしました。これに該当するものとして以下の場合が例示されています。 

 

①供述者らが強制送還され、公判期日に供述することができなくなるのを検察官が認識しながらこれを利用しようとした場合 

②裁判所が証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還された場合 

 

「本件の場合、供述者らが国外にいることになった事由は退去強制によるものであるところ、退去強制は、出入国の公正な管理という行政目的を達成するために、入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定の要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分であるが、同じく国家機関である検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん、裁判官又は裁判所が当該外国人について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など、当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得るといわなければならない。」 

 

もっとも、本件では上記場合に該当しないので、本件調書の証拠能力は認められるとしました。 

 

「これを本件についてみるに、検察官において供述者らが強制送還され将来公判準備又は公判期日に供述することができなくなるような事態を殊更利用しようとしたとは認められず、また、本件では、前記一三名のタイ国女性と同時期に収容されていた同国女性一名(同じく被告人らの下で就労していた者)にっいて、弁護人の証拠保全請求に基づき裁判官が証人尋問の決定をし、その尋問が行われているのであり、前記一三名のタイ国女性のうち弁護人から証拠保全請求があった一名にいては、右請求時に既に強制送還されており、他の一二名の女性については証拠保全の請求がないまま強制送還されたというのであるから、本件検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くとは認められないのであって、これを事実認定の証拠とすることが許容されないものとはいえない。」 

  

 

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