Skip to main content

[解説] 前科を公開されない利益:最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 
1.前科等のある者も、これをみだりに公開されないという法律上(憲法でない)の保護に値する利益を有する 

1.事案の概要 

 XはA会社から解雇されたたが、この解雇の効力について争っていました。この係争中、A会社の代理人弁護士であるBは、弁護士法23条の2第1項の規定(弁護士は所属弁護士会等に対して、受任している事件につき必要な事項の報告を求めるができる規定)に基づき、Xの前科及び犯罪経歴について照会申出を行った。これを受けた京都弁護士会は、京都市に対して照会を行い、これに応じた京都市は、Xの前科・犯罪経歴について回答しました。そこで、Xはこの行為がプライバシーの侵害であるとしてYに対して損害賠償を請求しました。 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。 

 

最高裁は、前科等は人の名誉、信用にかかわるものでこれをみだりに公開されない利益を有するとし、①前科の有無等が訴訟等の重要な争点となっている②照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、照会に応じて回答をすることが許されるとします(この場合に限るかは不明)。また、この場合でも前科等の取扱いには慎重なものが必要とします。

 

「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法二三条の二に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」 

 

本件では、裁判所等に提出する必要があったに過ぎないため、これに応じて前科等の全てを報告するのは違法であるとしました。 

 

「本件において、原審の適法に確定したところによれば、京都弁護士会が訴外D弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていたD弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」 

スポンサーリンク
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です